第248章 お客様、お子様を抱き上げてください

鈴木弘美は小さな顎を上げて、

「おじさん、私の身長が1メートルを超えたら子供じゃないから、抱っこは必要ありません」

藤田深志は彼女の意思を尊重して、

「そうですね、でも私のそばから離れないでくださいね!」

「はい、大丈夫です」

二人は列の中で後ろの群衆に押されながら前に進み、藤田深志は鈴木弘美を前に守るように立ち、後ろの人々が彼女を押さないように防いでいた。

チケットゲートに近づくと、突然列が太くなり、混雑が激しくなった。

警備員は大人と子供の二人に目を向け、思わず注意を促した。

「お客様、お子様を抱っこしてください。はぐれたり踏まれたりする危険がありますので」

なぜか、藤田深志はその言葉を聞いて心が温かくなった。この清楚な少女を見ながら、4年前のあの事故がなければ、自分の子供もこの子と同じ年頃だったはずだと考えていた。

彼は子供を失った人間だった。

絶え間なく前に押し寄せる人波に我に返り、そのとき横から中学生くらいの男の子たちが騒ぎながら押してきて、その足が鈴木弘美に踏みそうになった。

その一瞬で、彼は素早く反応し、鈴木弘美を抱き上げて高く持ち上げ、怪我を防いだ。

鈴木弘美も驚いたが、このおじさんに抱かれることを黙って受け入れた。

「弘美ちゃん、中に入って人が少なくなったら降ろしてあげるね?」

鈴木弘美は素直に頷いた。

ようやくチケットチェックを終えて入場すると、藤田深志は鈴木弘美を地面に降ろした。

鈴木弘美は好奇心いっぱいの表情で周りを見回して、

「わあ、すごく人が多いね。ママが早くからチケットを買っておいた理由がわかったよ。今回の展示会のジュエリーはきっとすごいんだね。今日のジュエリーを全部写真に撮ってママに見せてあげるんだ」

藤田深志は彼女の首にかかっている子供用カメラを見て尋ねた。

「ママがチケットを買ったのに、どうしてママと一緒に来なかったの?」

鈴木弘美は残念そうにため息をついて、

「ママが京都府におばあちゃんを迎えに行ったの。今回のジュエリー展に来られなくて、きっと残念がってると思う」

「ママはジュエリー展が好きなの?」

「もちろんよ。ママはジュエリーデザイナーで、ママがデザインしたジュエリーは世界一きれいなの」