第316章 帰らないでくれないか?

「じゃあ、家に置いておきましょう」

「之恵、バッグを選んでみない?」

鈴木之恵は顔を上げて見渡した。この壁一面の棚は天井まで届き、各区画にはバッグが詰め込まれ、多くにはまだタグが付いていた。一番上の棚は、椅子に乗らないと届かないほどの高さだった。

「藤田深志、実は...これらのデザインは今となっては少し時代遅れよ」

鈴木之恵は正直に言った。女性のバッグは物を入れるためだけのものではなく、ファッションのアクセサリーに過ぎない。それらのバッグは高価で、中には当時の限定品もあったが、それでも時代遅れという事実は変えられなかった。

二人の結婚関係と同じように、たとえ当時どれほどこの関係を大切にしていても、あの出来事の後では元には戻れない。

愛というものは本当に保存がきかない。特に一方だけが努力している状況では。

彼らの感情にはタイムラグがあった。

彼女が熱烈に愛していた時、彼は自分の感情を理解していなかった。それが二人の間に誤解を生んだ。

そして今、彼女にはもう彼とやり直す勇気がない。あの痛みはまだ生々しく残っていた。

藤田深志は喉を鳴らし、彼女の肩に咲く艶やかな彼岸花を見つめた。

彼は、彼女がこんな悲しい花言葉を持つ花を身に入れることを選んだ時の心境を想像した。おそらく、二度と彼に会わないことを願っていたのだろう。

「之恵、本当にもうチャンスはないの?」

鈴木之恵は黙ったままだった。

そのとき、小柳さんが外から呼びかけた。

「社長、奥様、夜食ができましたよ。下りていらっしゃいませんか」

鈴木之恵は感情を抑えて部屋を出て階段を降りた。小柳さんは前を歩きながら興奮気味に報告した。

「奥様、知らないでしょうけど、花屋さんから持ち帰ったクレマチスが咲きましたよ。春に一度咲いて、この数日また蕾が出てきたんです。捨てちゃダメだって言ったでしょう。育ててみましょうって。この花は人と同じで、焦ってはいけません。ゆっくりと」

鈴木之恵は小柳さんが言外の意味を込めているのかどうかわからなかった。以前、二人が喧嘩した時も、彼女はいつも慎重に諭していた。悪意はなく、素直な心の持ち主だった。

おじいさまが送ってきた人で、鈴木之恵は彼女のことが結構好きだった。