第356章 店を任せきり

鈴木之恵は唇を噛んで微笑んだ。二人の子供はもうすぐ5歳になる。そろそろ彼女も手放しの楽しみを味わってもいいだろう。

「この数日間、弘文と弘美を預かってもらってもいい?」

藤田深志は数秒考え、頭の中で最近の仕事のスケジュールを素早く確認した。外出の予定や付き合いは柏木正に後回しにさせていた。

「二人が望むなら、私は問題ないよ」

「よし、じゃあそう決まりね」

藤田深志の電話が鳴った。彼は表示を確認し、携帯を持ってベランダに出た。

「社長、先日怪我をしたあのモデルの家族が大勢藤田晋司のところに押しかけてきて、今彼は缶詰め状態です」

藤田深志は指先でタバコを挟みながら、淡々と言った。

「あの連中は金が欲しいだけだ。そのモデルと連絡を取って、彼女の要求を聞いて満たしてやれ」

柏木正は承諾して電話を切った。

一方、藤田晋司の私邸の前では、藤田晋司は完全に包囲されていた。

先日のウェディングショーで、藤田晋司が雇ったモデルの靴が内部の誰かによって細工され、ステージ上で転倒して足首を骨折し、膝蓋骨を粉砕。部下の対応が不十分で、今でも事件の真相は解明されていない。

モデル界で少し名の知れたその不運な人は病院に運ばれ、当時藤田晋司は広報部にこの件を押さえ込ませ、病院にも見舞いに行き、少額の補償金を支払った。

そのモデルは当初、しばらく休養すれば退院してショーに復帰できると思っていたが、後に医師から足首は大丈夫だが、膝は一生後遺症が残り、ハイヒールの着用は勧められず、もうステージに立つことは不可能だと告げられた。

モデルは彼女の人生の夢だった。彼女がどうして諦められようか。

しかし彼女が相手にしているのは藤田グループの藤田晋司のような資本家。彼女のような背景のない労働者が権利を主張するのは天に登るほど難しい。一昨日、何者かから藤田晋司の自宅住所を密かに教えられ、親戚友人総動員し、さらに金を払って数人の騒ぎ屋を雇い、門前で張り込むしかなかった。

一日一晩張り込んで、ようやく藤田晋司本人に会えた。

藤田晋司は今、群衆に囲まれて罵られていた。この家の住所は誰も知らないはずで、帰宅時も無防備で、助手すら連れていなかった。

本当に油断していた。

藤田晋司は騒音で頭が痛くなり、

「一体何が望みなんだ?代表を一人決めて話せないのか?」