過去の経験から、彼女は人を無条件に信じることが難しくなっていた。信頼を再構築するのは容易なことではなかった。
でも、彼の最近の細やかな気遣いは日常生活の隅々に染み渡り、心を動かされないはずがなかった。
今の彼女の気持ちは、怖いけれど近づきたい衝動を抑えられなかった。
心の中のときめきがなければ、さっきテントの中で彼の好きにさせることもなかっただろう。
鈴木之恵は、彼が自分にとって美しい罌粟の花のような存在だと明確に理解していた。危険で魅惑的な。
彼女はあの恋愛の影から完全に抜け出せていなかった。全てを捨てて新しい生活を始めたように見えても、真夜中に目が覚めて二人が別れたという事実に気づくと、息苦しくなるほど辛かった。
長年愛した男との別れは、皮一枚剥ぐような痛みを伴うものだった。
藤田深志は確信を持って答えた。
「いいよ。」
鈴木之恵の不安な心が少しずつ和らいでいった。
「じゃあ、あなたを受け入れる努力をするわ。でも、私を急かさないで。」
藤田深志は彼女を急かす勇気などなかった。彼女が自分を受け入れてくれるだけで、胸の中で花火が上がるような気持ちだった。感情は徐々に育んでいくものだから。
彼は二人とも一度は愛し合っていたことを信じていた。この4年間のブランクは、必ず取り戻せると。
「急かしたりしないよ。」
二人はキッチンで長い時間を過ごし、たくさん話をした。外に出たときには既に深夜だった。
弘美が布団を蹴っていたので、鈴木之恵は優しくかけ直してあげた。
4人家族が狭いテントの中で横になり、今度は藤田深志も大人しく、テントの入り口に向かって彼女に背を向けて寝た。
夜が明けると、どういうわけか鈴木之恵は再び彼の腕の中に転がり込んでいた。
朝一番に目覚めたのは鈴木弘文で、鈴木之恵も物音で目を覚ました。弘美も起きていることに気づき、顔を上げると、藤田深志が動かずに彼女を見つめていた。
そして彼女の頭は、いつの間にか彼の腕の上に乗っていた。
普段は寝つきが悪い彼女だが、昨夜は不思議と熟睡できて、4人家族の中で最後に目覚めた。
弘文と弘美に二人が抱き合っている姿を見られて、鈴木之恵は少し気まずく感じた。急いで起き上がって髪を整えた。幸い、二人の子供たちは子供らしい無邪気な言葉を口にすることはなかった。