過去の経験から、彼女は人を無条件に信じることが難しくなっていた。信頼を再構築するのは容易なことではなかった。
でも、彼の最近の細やかな気遣いは日常生活の隅々に染み渡り、心を動かされないはずがなかった。
今の彼女の気持ちは、怖いけれど近づきたい衝動を抑えられなかった。
心の中のときめきがなければ、さっきテントの中で彼の好きにさせることもなかっただろう。
鈴木之恵は、彼が自分にとって美しい罌粟の花のような存在だと明確に理解していた。危険で魅惑的な。
彼女はあの恋愛の影から完全に抜け出せていなかった。全てを捨てて新しい生活を始めたように見えても、真夜中に目が覚めて二人が別れたという事実に気づくと、息苦しくなるほど辛かった。
長年愛した男との別れは、皮一枚剥ぐような痛みを伴うものだった。