鈴木之恵はキッチンを片付け、エプロンを脱いでキッチンから出てきた。
「救急箱はどこ?膝を見てあげるわ」
藤田深志は我に返った。この嘘は自分の私心を満たすためだけだったのに、まさか彼女がこんなに真剣に受け止めるとは。
「この家にはあまり住んでないから、救急箱はまだ用意してないんだ。之恵、大丈夫だから、先に休んでいて」
「私は疲れてないわ。まず消毒してあげる」
鈴木之恵はそう言いながら、リビングの棚から赤い十字が描かれた箱を見つけ出して上下に眺めた。
「これは救急箱じゃないの?」
藤田深志は喉を鳴らした。やはり一つの嘘は百の嘘で埋め合わせなければならない。
「家にあったの忘れてた」
鈴木之恵は彼の居心地の悪そうな表情に気付かず、救急箱を持ってきてソファで彼のズボンの裾をめくろうとした。