緊急事態のため、鈴木之恵はスーツケースを引っ張り出し、適当に数着の服を詰め込み、染川明菜を呼んで二人の子供の面倒を見るよう頼んだ。
すぐに藤田深志から再び電話がかかってきた。
「之恵、玄関に着いたよ。支度ができたら出てきて」
鈴木之恵はスーツケースを持って急いで外に出た。
藤田深志は黒いスーツに黒いシャツ、頭からつま先まで全身黒づくめだった。心が通じ合っているのかどうかは分からないが、鈴木之恵も今日は黒いワンピースを着ていた。
二人は道中半分ほど沈黙を保った。
鈴木之恵は目の端で彼を密かに観察した。彼の運転の癖は、右手でハンドルを操作し、左手を窓枠に置いている。機嫌が悪そうに見えた。
車内のエアコンは強めにかかっており、鈴木之恵は何となく寒さを感じた。
「ごめんなさい」