第87章 彼女と瀬戸奏太が一緒にいるのを見た

結城暁がこの光景を見たらどんな気持ちになるのでしょうか？

彼女はとても楽しみにしているのです！

藤宮清華は得意げな笑みを浮かべました。

お湯を飲んだ後、南雲泉の胃は少し楽になりました。

でも、もうここにいる勇気は残っていませんでした。

さっきお腹の調子が悪くなかったら、とっくに帰っていたはずです。

確かに、藤宮清華に反論し、彼女の前では毅然とした態度で断固として話しましたが、自分の心がどれほど怖く、どれほど脆いかは自分だけが知っていました。

ただ、無理に自分を強く見せ、どんなことにも屈しないように装っていただけなのです。

その殻を脱ぐと、実は触れただけで壊れてしまうほど脆かったのです。

ここは、なんて豪華で、なんて美しく、なんて夢のようなのでしょう！

でも、それは全て別の女性のためのものでした。

今は、一つ一つの呼吸が刃物のように、少しずつ彼女の心を切り刻んでいくように感じました。

臆病な自分を許してください、弱い自分も許してください、本当にもう勇気がないのです。

怖いのです。

この後、二人が手を取り合って入場してくる仲睦まじい姿を見なければならないことが怖いのです。

彼が愛情のこもった眼差しで、優しい声で藤宮清華に心動かされる言葉を囁くのが怖いのです。

そして何より、自分がそれに耐えられないことが怖いのです。

だから、逃げるしかないのです。

早めにこの全てから逃げ出すしかないのです。

立ち上がって、南雲泉は外へ向かいました。

彼女が知らなかったのは、瀬戸奏太も彼女の後を追って出て行ったことでした。

結城暁が来た時に見たのは、二人が前後して歩く姿でした。前後していたとはいえ、なぜか二人が一緒にいるように感じられました。

やはり彼か、瀬戸家の次男坊だ。

本当に意外だった。瀬戸家のあれほど大きな事業を、唯一の男子が継がずに、警察官になるとは。

突然、結城暁の目が瀬戸奏太の服に留まりました。

あのスーツが、とても見覚えがありました。

どこかで見たような気がしてなりません。

結城暁は一生懸命に記憶を探り、すぐに瞳を凝らして瀬戸奏太を見つめました。

あの服がなぜ見覚えがあるのか分かりました。これは南雲泉があのメンズショップで買った服でした。