第110章 南雲泉の誕生日

お風呂から出てきた南雲泉。

結城暁がまだいるとは思わなかった。同じ部屋にいても、もう二人の間には共通の言葉がないかのようだった。

南雲泉は髪を洗い、まだ水滴が垂れていた。

タオルで髪を拭きながら、結城暁を避けて通り過ぎようとした。

「手伝おうか」結城暁が近寄ってきた。

「結構です。自分でできますから」

髪を乾かし終わると、南雲泉はベッドに入った。

その時、結城暁はもう部屋を出ていた。

南雲泉は彼の去っていく背中を見つめ、突然涙があふれ出した。

泣かないと決めていたのに、涙はまるでスイッチがあるかのように、ある神経に触れた途端に自動的に流れ出し、もう止められなかった。

彼のプライドの高さを知っていた。どうして彼女の冷たさや疎遠な態度に耐えられるはずがあろうか。

彼はいつも周りから注目を集める存在で、人に取り入られることはあっても、人に取り入ることなど一度もなかったのだから。

出て行ってくれた方がいい。そうすれば、もう彼を見続ける必要もない。

見なければ、痛まないかもしれない。

見なければ、こんなにも苦しくないかもしれない。

でも、こんな遅くに家を出て、どこへ行くのだろう?

答えは、もう明らかで、考えるまでもなかった。

どれだけ時が経っても、何年経っても、彼の心の中にいるのは藤宮清華なのだ。

以前は、自分には何も恐れない心があると思っていた。献身も、苦労も、待つことも恐れなかった。

でも現実は、間違っていた。実は誰よりも臆病で、誰よりも恐れていたのだ。

電気を消し、南雲泉は目を閉じてベッドに横たわった。

横たわっているとはいえ、実際には全く眠れず、ただ天井とそこにあるクリスタルシャンデリアを見つめていた。

どれくらい経ったか分からないが、突然、ドアが開く音がした。

続いて、足音が聞こえた。

結城暁が戻ってきたのだ。

帰らなかったの?

藤宮清華のところへ行かなかったの?

すぐにクローゼットが開き、結城暁はパジャマを取ると浴室へ向かい、シャワーの音が南雲泉の耳にはっきりと届いた。

この瞬間、彼女はこの男性のことが読めなくなったと感じた。

爽やかな香りが鼻先に漂い、細い腰に優しくも力強い両手が巻き付いた時、南雲泉は彼がベッドに来て、自分を抱きしめていることに気付いた。