彼女はいつの間にか、彼がこんなにツンデレで、こんなに優しく、そしてこんなに上手く話せるようになったことに気づかなかった。
彼女は断る言葉さえ言えなくなってしまった。
古い町の夜は、とりわけ美しかった。
月さえも水から掬い上げたかのように、とても優しかった。
月光が水のように、静かに二人の上に注がれていた。
南雲泉と結城暁は並んで古い屋敷へと歩いていた。二人はとても静かで、まるで暗黙の了解があるかのように、誰も言葉を発しなかった。
「あっ……」突然、南雲泉が声を上げた。
結城暁は急いで彼女の手を掴み、彼女を支えた。
下り坂の道にでこぼこした場所があり、南雲泉が気付かずに、もう少しで転びそうになったのだった。
安定を取り戻した後、南雲泉は静かに結城暁の手から自分の手を抜き、同時に丁寧に「ありがとう」と言った。