司瑛人は聞きながら、顔色を曇らせた。
しかし、優しい声で諭すように言った。「このドレスは綺麗だよ。色も君に似合っている。私の言うことを聞いて、これを着てくれないか」
桐山念は不満そうに声を上げた。「色以外は何も良くないわ。デザインが酷すぎるわ。司瑛人、私はスターなのよ。たくさんの人が注目しているのに、こんな服を着て人前に出られるわけないでしょう!」
「他のに変えてくれない?」念は優しく懇願した。
司瑛人は念の言い分にも一理あると思ったが、この店の服を頭の中で素早く探してみた。
最終的な結論として、他の服は多かれ少なかれ露出が多すぎた。
胸元が開いているものや、ウエストにレースの透かし模様があるもの、さらには可愛らしいセクシーなスタイルのものまであった。
そのため、司瑛人は同意しなかった。
念も同意せず、二人は膠着状態に陥った。
最後に、司瑛人は彼女を半ば脅すように言った。「今、試着室には私が持っているこの服以外何もないんだ。これを着るか、着ないで私のコートに包まれて抱かれて帰るか、どちらを選ぶ?」
念は「……」
彼女は認めた。脅かされたのだと。
結局、おとなしく妥協して、司瑛人が選んだ極めて保守的なドレスを着ることにした。
黒い長いドレスで、頭から足まですっぽりと覆われ、足首さえも見えなかった。
しかし、念の姿を見た瞬間、司瑛人は再び後悔した。
とても普通のドレスのはずなのに、彼女が着ると途端に魅力が増した。特に黒いドレスが彼女の体のラインを美しく強調し、全体的なシルエットが非常に美しく、見る者を虜にしてしまうほどだった。
「帰るぞ」
今度は、司瑛人は念の手を引いて、何も言わずにそのままショッピングモールを出た。
一方、南雲泉は数個の買い物袋を持って、ちょうどショッピングモールから帰ろうとしていたところ、思いがけず結城柔と出くわしてしまった。
見かけたものの、彼女は全く相手にしたくなく、見なかったことにしようとした。
しかし、結城柔は買い物袋を持ちながら、わざと大げさに歩み寄ってきた。
「おや、これは義姉さんじゃない?私を見かけても挨拶一つしないの?」結城柔は南雲泉を全く眼中に入れていない様子で、冷ややかに皮肉を言った。
南雲泉は冷たく一瞥しただけで、彼女と話す価値すら感じなかった。