藤原月は立ち去った後、小林詩織の主治医を訪ねて、その後一日中会議に出席していた。
退社時間になると、彼は時間通りにオフィスを出て、テレビ局へ向かった。
しかし今日彼を出迎えたのは大森千夏だった。彼女は彼の車を知っていたので、近づいて挨拶をした。「藤原社長は高橋真子に電話されなかったんですか?彼女はスタジオを出たらすぐに帰ってしまいました。」
「ありがとう!」
藤原月は深い声で言うと、すぐに車を走らせた。
道中、彼は高橋真子に電話をかけたが、彼女は出なかった。おばあさんに電話をすると、真子が午後ずっと病院にいたことを知り、おばあさんの話を最後まで聞かずに病院へ急いだが、またしても会えなかった。
「あなた、バカなの?最後まで話を聞かないなんて!」
おばあさんは彼の責めるような態度を見て、先に彼を叱りつけた。
藤原月は傍らに立ちながらため息をついた。「彼女に電話をかけてください。今一人でいるのが心配です。」
「まあ!今になって嫁のことを心配するようになったの?」
「今朝、誰かが彼女の家に行って脅しをかけ、赤いペンキを投げつけたんです!」
藤原月はおばあさんに誤解されたくなくて、説明を加えた。
おばあさんはそれを聞いて、顔が真っ青になった。「そんなことが!彼女は午後ずっとここにいたのに、一言も言わなかったわ。」
「まず電話をかけてください!」
藤原月は彼女が見つからないことに不安を感じていた。
おばあさんもすぐに彼女に電話をかけた。
今度は高橋真子がすぐに出て、優しい声で答えた。「もしもし、おばあちゃん!」
「真子、どこにいるの?」
おばあさんは携帯を持ちながら尋ね、思わず孫の方をちらりと見た。
藤原月の表情は明らかに良くなかった。彼が何度も電話をかけても出なかったのに、おばあさんが電話をかけるとすぐに出たのだから。
「家にいるわ!家が汚れているから、大掃除をしているの!」
「家にいるの?」
おばあさんは彼女が家にいると聞いて驚き、急いで孫の方を見た。
藤原月はすでに背を向けて歩き出していた。おばあさんは少し考えてから、彼女との会話を続け、時々すすり泣くような声を出して、高橋真子に泣いているように思わせた。
高橋真子はおばあさんと30分ほど話し、後半はほとんどおばあさんをなだめることに終始した。