詩織だ!
彼女が入ってきた途端、その場の空気が一変した!
広々としたマンションの中が、急に息苦しくなった。
五人、五つの思惑!
佐藤正臣と須藤陽太は帰りたくなった。二人は芝居を見るのは好きだが、この芝居は見る勇気がなかった。
「家には使用人がいるのに、どうして真子さんに料理を作らせるの?彼女はアナウンサーなのに、油煙の匂いがついたら良くないでしょう?」
詩織は優しく藤原月を諭した。
須藤陽太と佐藤正臣はさらに黙り込んだ。二人とも分かっていた、詩織は越えてはいけない一線を越えたのだと!
彼女は藤原月の境界線を越えた。
藤原月はただ淡々と言った:「彼女だって人間だ。料理を作ったくらいでニュースキャスターができなくなるわけじゃない」
高橋真子は自分が藤原月の心の中では、永遠に普通の人でしかないことを知っていた。確かにそうだった。彼の言葉に問題があるとは思わなかったが……
昼間に小林輝が自分に言った言葉を思い出し、突然息苦しくなった。立ち上がって:「ちょっと用事があるので、先に失礼します!ごゆっくりどうぞ!」
藤原月の視線は彼女にしっかりと注がれていた:「食事が終わったら送る!」
「結構です!詩織さんの面倒を見てあげてください!須藤さん、佐藤さん、さようなら!」
高橋真子は椅子を引いて立ち去ろうとした。
詩織は当然彼女が早く帰ることを望んでいたが、藤原月も突然立ち上がった。
須藤陽太と佐藤正臣は、さっき藤原月の言葉を聞かずにここに残ったことを後悔した。
詩織は扱いにくい存在で、二人も逃げ出したかった。特に詩織が突然胸を押さえて倒れそうになった時、向かいに座っていた二人は肝を冷やした。
「月、胸が苦しいの、もうだめかも!」
詩織は藤原月の袖を掴み、彼に向かって倒れかかった。
「真子、私の携帯を取ってきて!」
藤原月は追いかけずに、詩織を支えながら真子を呼び止めた。
高橋真子は振り返って詩織が気を失っているのを見て、怖くなって帰るのを諦め、急いでリビングに行って携帯を取ってきた。
「大和田ドクターを検索して、電話して。二十分以内に到着すると伝えて」
藤原月は詩織を抱き上げ、素早く出て行った。
高橋真子は大和田ドクターを探して電話をかけながら、玄関を見つめていた。