藤原月は高橋真子の手を引き、コートを取って外へ連れ出した。
小林輝は中にいる人を見て、「後でまた来ます!」と言った。
外に出ると、藤原月は高橋真子にコートを渡し、自分に向かってくる男を見ながら、袖をまくり上げた。
高橋真子は彼の優雅な動きを見ていたが、その目には刃物のような冷たさが潜んでいて、思わず胸が震えた。
「月や、小林おじさんを殴るつもりか?」
小林輝は笑いながら尋ねた。
「殴ってなにが悪い?」
藤原月は軽く笑うと、次の瞬間、力強い拳を振り下ろした。
小林輝は全く防ぐ間もなく、横に吹き飛ばされた。
張本佳乃は入り口に立ち、呆然とその光景を見つめていた。
藤原月は小林輝の前に片膝をつき、片手で彼の襟を掴み、もう片方の手で指を突きつけた。「警告しておく。二度とこの女を脅すな。さもないと、ただではすまないぞ!」
「月、その女が何を吹き込んだんだ?目上の者を殴るなんて」
小林輝は殴られて目が霞んでいたが、演技を忘れなかった。
「目上?自分を買いかぶりすぎだ!」
藤原月はそう言い放つと彼を放り出し、立ち上がって、スタッフから渡された消毒ティッシュで手を拭きながら冷たい目で見下ろした。「この女は俺の一線だ!」
小林輝は高橋真子を見た。「まさか本当に月に何か言ったのか?若いくせに口が…」
「彼女は何も言っていない!俺がお前に目を付けていたんだ!」
藤原月は消毒ティッシュを彼の顔に投げつけ、黙らせた。
小林輝は彼にこのように辱められ、居場所がないほど恥ずかしかった。藤原月が嘘をついているようには見えなかったので、もう弁解はしなかった。
高橋真子は藤原月のコートを強く抱きしめ、この瞬間、涙が溢れそうになり、心が激しく揺れ動いた。
彼のこの一撃は、明らかに小林輝が彼女を辱めたことへの仕返しだった。でも、なぜ彼はそうしたのだろう?
小林輝は小林詩織の父親なのに!
どうしてこの人に手を出したのだろう?
藤原月は振り返って彼女の腕からコートを取り、再び彼女の手を取ってエレベーターの方へ向かった。
高橋真子は呆然と彼の後ろについて行った。その時、なぜか心の中がとても温かくなった。
守られているという感覚は、現実とは思えないほどだったが、確かに本物だった。
前を歩く彼を見ると、彼はとても背が高くて凛々しく、力強かった。