第125章 あなたを寝取られたのに、叩かないの？

高橋真子は彼が冷笑いを浮かべる理由が分からず、ただ注意を促すだけだった。「局長のことを忘れないでね。じゃあ、私は先に行くわ」

詩織は高橋真子が挨拶もせずに出て行こうとするのを見て、思わず呼び止めた。「真子、お姉さんに挨拶もしないの？」

高橋真子はそこで一瞬立ち止まり、振り返って彼女を見た。「行ってきます！詩織姉さん」

「うん！」

詩織は教養のある様子で頷き、笑顔で彼女を見送った。

高橋真子は外に出てドアをそっと閉め、外に立っている大和田瑞も機嫌が悪そうな様子を見て、そのまま立ち去ろうとした。

大和田瑞は我慢できずに彼女に言った。「高橋さん、お送りします！」

高橋真子は不思議そうに彼を見たが、断らなかった。

案の定、大和田瑞はエレベーターまで彼女を送り、尋ねた。「なぜ月様の看病を続けないんですか？」

高橋真子は軽く微笑んだ。「まさか、あなた本当に小林詩織のことが好きになったんじゃないでしょうね？」

「……」

大和田瑞は一瞬固まった。

エレベーターが開き、高橋真子は頷いて中に入った。

しかし、エレベーターのドアが閉まる時、彼女は何気なく一瞥して、心の中に不安が芽生え始めた。

藤原月の言葉が彼女の頭の中で巡り、しばらくしてようやくその考えを振り払った。

そんなはずない！

たぶん大和田瑞はただの世間話で、たまたま今日は機嫌が悪かっただけかもしれない。

高橋真子はエレベーターを出て外に向かおうとした時、入口に立っている二人を見て、思わず声を上げた。「おばあちゃん、お母さん、どうしてここに？」

「真子！あなたがいたのね！」

二人の年配者は目を潤ませ、近寄ってきて両側から彼女の腕を取り、おばあちゃんは涙を拭いながら尋ねた。「真子、あの不肖の孫は何階にいるの？今は目覚めているの？それとも眠っているの？状態はどう？私はまだひ孫を抱けていないのよ！」

おばあちゃんは話すほどに悲しくなっていったが、高橋真子はどう慰めていいか分からなかった。

おばあちゃんが本当に孫のことを心配しているのを見て、でも、どうやらひ孫のことの方が気になっているようで？

高橋真子は詩織のことを思い出し、小声で言った。「おばあちゃん、忘れたの？詩織が妊娠してるわ！」

おばあちゃんのすすり泣く声が突然止まった。