話の途中で言葉を飲み込み、急いで彼に目配せして携帯を見るように促し、メッセージを送った。
私【みんなと一緒に食事会に行くの?】
私【二人で食事するのがいいんじゃない?】
愛する彼氏【村上ちゃん、会社負担の食事会は社員の親睦を深める大切な機会なんだ。】
愛する彼氏【奈々さんが誘ってくれたんだから、応じないとね。】
愛する彼氏【それに今日彼女に目をつけられたんだろう?夜に彼女に酒を注いで謝罪すれば済むことだよ。】
彼は私に何通もメッセージを送って、今夜の食事会に必ず参加するよう諭してきた。山田奈々に酒を注いで機嫌を取れば、今月はもう今日のような孤立や嫌がらせはないだろうと言った。
私はいつも彼の言うことを聞いていた。物腰の柔らかい成績優秀な彼の言うことは全て理にかなっていると思っていたから。私は金の匙をくわえて生まれ、衣食に困ることなく育ったため、こういった社会の暗黙のルールをあまり理解していなかった。だから彼の提案は全て受け入れ、社畜生活を体験することにした。
食事会の場所は泰平大飯店に決まった。五つ星ホテルで、私の所有する施設だ。18歳の誕生日に父が贈ってくれたプレゼントで、資産運用を学ぶようにと言われた。
なるほど、会社負担で精算できるわけだ。兄の会社からの請求書は全て私が免除していたのだから。
でも父の考えは古すぎる。今の私はビジネスや資産運用を学ぶ必要はない。ビジネスや資産運用のできる人を雇えばいいだけなのだ。そのため、このホテルでは上層部の人間だけが私が大オーナーだと知っている。
「みなさん、ここで食事をする機会なんてなかったでしょう」山田奈々は私たち一行を豪華な個室に案内しながら、得意げな目つきで自慢げに言った。「一ヶ月後に正社員になれば、これからいくらでも機会はありますよ。泰平大飯店は大和の接待や社員旅行、忘年会の唯一の指定店なんです」
「大和には機会がたくさんあります。真面目に働けば、数ヶ月もすれば家も買えるようになりますよ」山田奈々は実習生たちに夢を語りながら、自分の能力を誇示した。「私なんて今、月給で頭金が払えるくらいですから」
その言葉に、実習生たちはどよめいた。私の彼氏も思わず羨ましそうな表情を浮かべ、同時に目に決意の色を宿した。彼は密かに私にメッセージを送ってきた【村上ちゃん、僕たち絶対に正社員になろう。正社員になったら一生懸命働いて、3年以内に君を娶るだけのお金を貯めるよ!】
彼のメッセージを見て、私は嬉しさを抑えきれなかった。嫌がらせを受けた不快感も完全に消え去った。
彼の将来の計画に私が含まれていることが本当に嬉しかった。私も一ヶ月後に彼を親戚回りに連れて行って、お年玉をもらおうと考えていた。そうすれば3日もかからずに彼は私を娶ることができるはずだ。
私が携帯を見ながら彼とこっそりメッセージをやり取りする密会のような楽しさに浸っていたとき、次の瞬間、画面に影が差した。
誰かが私の携帯を覗き見している!