第1章

手元の診断書を見つめながら、涙が止まらなかった。

乳がん、がん細胞の転移、余命わずか。

電話をかけるとき、声を抑えて、泣いているのを悟られないように必死だった:

「あなた、今夜は残業で、十時過ぎになりそう……」

電話の向こうで相手が一瞬戸惑い、すぐに平然とした態度で言った:「わかった。」

パタンと、電話が切れた。

一言の心配も問いかけもなかった。

気のせいかもしれないが、彼の声には少し安堵の色が混じっているように感じた。

この何年も、高橋一郎の態度はずっと冷たかった。

長年連れ添った夫婦なら、これが普通なのかもしれない。

外を見上げると、夜の帳が下り、多くのカップルが手を繋いで歩いていた。

こんな長い夜、私もただぶらぶらと時間を潰すしかない。