第2章

動画の中で、河村鳴海は田中甘奈と離れがたいほど熱烈にキスをしているようでした。

この短い動画には日付も記録されていて、三日前のものでした。私が体調を崩して病院に行きたいと思い、河村鳴海に付き添ってほしいと頼んだ時、彼は忙しいという口実で断ったのです。

私の体調不良は妊娠によるものだったのに。

彼の「忙しい」は後輩とのデートに忙しかったのです。

そう思うと、私の心は底なしの谷底に沈んでいきました。

私が用意したこれら全てが、まるで笑い話になってしまったようです。

でも、彼の口から直接聞きたかった。彼と田中甘奈の関係が一体どういうものなのか。

そこで、もう一度彼に電話をかけました。

今度はしばらく呼び出し音が鳴ってから、やっと電話に出ました。

電話の向こうは本人ではなく、彼のマネージャーの山本奈々でした。

「坂本さん、今夜は忙しいんですが、何か急用でしょうか?」山本奈々は私のことを快く思っていません。彼女は河村鳴海が若くして結婚したことを理解していないのです。

「はい、あります。」普段なら山本奈々にそう言われただけで謝って電話を切り、邪魔するのを躊躇していたでしょう。でも今日は、はっきりさせなければなりませんでした。

「では後で彼から折り返し電話させます。」山本奈々は面倒くさそうに私に答え、そのままスマートフォンを机の上に伏せて置きました。

彼女は電話を切っていなかったため、突然二人の男性の声が聞こえてきました。

一人は河村鳴海で、もう一人は彼が所属する芸能事務所の社長で、幼なじみの藤田一郎でした。

「おいおい、スター様よ。キスだけで熱愛スクープされただけでトレンド入りの半分を占めちゃったじゃないか。これが隠れ婚に子供までバレたら、トレンド欄全部持っていかれちゃうんじゃないの?」

藤田一郎はこの言葉を言う時、明らかに「隠れ婚に子供」という言葉を強調していました。

彼は私の存在を知る数少ない人物の一人です。

彼が河村鳴海と私の若すぎる結婚をからかっているのが分かりました。

しかし、次の瞬間、私の注意は完全に河村鳴海の言葉に奪われました。

彼は藤田一郎に答えて、「子供なんてできないよ」と言いました。

「なんでだよ?」藤田一郎は不思議そうに尋ねました。「結婚して何年も経つんだから、そろそろ子供を作ってもいい頃だろ。」

河村鳴海は俳優で、結婚も出産も特に制限はありません。

「あいつとは子供を作る気はない。」河村鸣海は少し間を置いてそう言いました。

私は雷に打たれたような衝撃を受けました。

七年間付き合い、三年間結婚して、彼は私との子供を望んでいないというのです?!

私はお腹の中の赤ちゃんを私たちの愛の結晶だと思っていましたが、彼の目には単なる重荷でしかなかったのです。

「あいつと子供を作りたくないなら、なんで結婚したんだよ?」藤田一郎は追及し続けました。「やっぱり強引に結婚を迫られたんだろ?坂本愛子みたいなタイプは、一度掴んだら絶対離さないタイプだもんな!」

「お前が東を指せば、西なんて見向きもしないような女だぜ。きっと子供を作って、お前を縛り付けようとしてるんだよ!一生お前から離れられないってさ。」

「男は子供ができたら自由がなくなるんだよな!お前の考えは正しいよ。あいつとは絶対に子供を作るな!一人も作るな!」

藤田一郎はとりとめもなく色々と話し続けました。

私は河村鳴海の返事を聞く勇気がなく、すぐに電話を切りました。

見上げると、キャンドルディナーはもう冷めてしまっていましたが、温め直す気持ちにもなれませんでした。

そうか、他人の目には、私は河村鳴海にしがみつく厄介者で、一生彼から離れられない存在なのですね。

私が愛の結晶だと思っていた子供さえも、自由を束縛するものとして見られているのです。

そのとき、ドアをノックする音が聞こえました。

私はドアを開けに行きました。

動画に映っていた女の子、田中甘奈でした。

「あなたは...ここの家政婦さんですか?」

彼女はキャップを被って顔の半分を隠していましたが、顔を上げて私を見た瞬間、私は彼女だと分かりました。

私がその場で呆然としていると、彼女は私を押しのけて中に入ってきました。

家の中に向かって叫びました。「河村さん、いらっしゃいますか?」

「彼に何の用ですか?」私は拳を握りしめ、冷静さを保とうと声を押し殺して尋ねました。

「あなたには伝えられない用件なの。」田中甘奈は笑みを浮かべ、振り返って私に言いました。「撮影の時、河村さんはいつもお弁当を持参して、現場の仕出し弁当は食べないんです。家政婦さんの作る料理が美味しいって言ってたけど、まさかこんなに若い方だとは思いませんでした。」