「ママ、ただいま!」
愛は毎週この時間に水泳の練習に行くので、予定通りなら時間は決まっている。
木村文雄も彼女の習慣を知っているからこそ、この時間を選んで来たのだ。
「今日はもう帰って」
以前なら泊めていたかもしれないけど、今回そんなことをしたら私は頭がおかしいということになる。
私は愛のカバンを受け取り、彼のことは無視した。
木村文雄は未練がましく、何度も振り返りながら去っていった。
彼の視線を感じ取り、私は目立たないように愛の前に立ち、彼が声をかけようとするのを阻止した。
木村文雄が庭を出るまで、愛は私の腕の中から顔を上げなかった。
「ママ、あの人誰?」
私は遠ざかっていく背中を見つめ、深い眼差しを向けた。
「ママが支援している学生よ。私たちの家に住みたがってるの」