第36章 姉は地味に生きたいのに無理

「ああ」森啓次郎は淡々と答え、相変わらず無表情だった。野村香織は首を振り、完全に諦めた。こんな性格では、他に何も言えないだろう。

食事の後、野村香織は部屋に戻り、ジュースを手に持ってベッドに寄りかかりながら、渡辺大輔の今日の言葉を思い返していた。考えれば考えるほど可笑しく思えた。どれだけ自己愛が強い人間なら、あんな言葉が言えるのだろうか。

翌朝、まだ夜が明けきらない頃、小村明音から電話がかかってきた。「香織ちゃん、また話題になってるわよ。どうしましょう?」

「大丈夫よ、好きにさせておきましょう。もう慣れたわ」野村香織はタブレットを見ながら答えた。

昨日、彼女が森啓次郎と別荘で夕食を共にしたことが、パパラッチに盗撮されてネットに投稿された。ぼんやりとした動画まで出回り、瞬く間にネット上で大きな話題となった。