第36章 姉は地味に生きたいのに無理

「ああ」森啓次郎は淡々と答え、相変わらず無表情だった。野村香織は首を振り、完全に諦めた。こんな性格では、他に何も言えないだろう。

食事の後、野村香織は部屋に戻り、ジュースを手に持ってベッドに寄りかかりながら、渡辺大輔の今日の言葉を思い返していた。考えれば考えるほど可笑しく思えた。どれだけ自己愛が強い人間なら、あんな言葉が言えるのだろうか。

翌朝、まだ夜が明けきらない頃、小村明音から電話がかかってきた。「香織ちゃん、また話題になってるわよ。どうしましょう?」

「大丈夫よ、好きにさせておきましょう。もう慣れたわ」野村香織はタブレットを見ながら答えた。

昨日、彼女が森啓次郎と別荘で夕食を共にしたことが、パパラッチに盗撮されてネットに投稿された。ぼんやりとした動画まで出回り、瞬く間にネット上で大きな話題となった。

昨夜寝る前に、彼女はすでにこのことを知っていた。話題はすぐに収まると思っていたが、予想以上にネット上で大きな騒ぎになっていた。想像力豊かなネットユーザーたちは、「若い男を囲う」という見出しを付け、小林輝明や和敏との写真を比較し始めた。

当時、小林輝明は彼女を支持するため、フォロワー減少や批判の圧力に耐えながら、野村香織に求愛中だと表明した。誰もが二人は間違いなくカップルだと思い込んでいた。そうでなければ、野村香織がどうして別荘や高級車を持っているのか説明がつかない。今、野村香織が小林輝明のお金で若い男を囲っているという噂が広まり、多くのネットユーザーや「小林家の人々」から激しい非難を浴びることになった。

以前は小林輝明から高級車と別荘をもらい、その後は和敏が空港での支払いを済ませ、さらに今度は若い男を囲うという展開に、野村香織は「女版プレイボーイ」というレッテルを貼られた。「タイムマネジメントの達人」という称号まで付き、野心的な女性ファンたちは、すでに野村香織に男性を魅了するテクニックを学ぼうと準備を始めていた。

「本当に最低な女だわ。私たちの輝明さんに訴えを起こすべきよ。この女に金と色で騙されたって」

「泣きそう、胸が痛い。私たちの和敏くんがあんなに純粋なのに騙すなんて。この女は人間じゃない。アイドルを守る戦いを始めるときよ。グリーンティー女子から離れて、命を大切にしましょう」