第104章 青豆バエ

「もう言うことないの?」野村香織は詰問するように言った。

そう言うと、車のドアを開け、中に飛び込んで、スマートフォンをホルダーに取り付け、スピーカーフォンをオンにした。

青木翔は答えた。「あー...誤解しないでください。実は一緒にリスクを分担したいだけなんです。他意はありません。」

「誤解してないって言ってるのに。私のことを知ってる人なら分かるはず。数千万の投資どころか、数億だって私にとっては大した負担じゃない。あえて私に負担があるとすれば、それは私から一杯掻っ攫もうとする競合他社よ。私の目には、そういう競合こそが最大の敵。まるでハエみたいなものね。」野村香織は意味ありげに言った。

青木翔は舌打ちした。彼だって馬鹿じゃない。野村香織が遠回しに彼を侮辱していることは分かった。野外トイレに集まるハエに例えられたのだ。

立て続けに反論され、今度はハエに例えられ、青木翔は裕福な家庭の息子らしい気性を見せ始めた。冷笑しながら言った。「はいはい、善意が仇になったってわけですね。『スカイラブ』は確かにヒット作になるでしょうが、ブルーライトメディアは他の作品を撮ればいい。世の中にIPはいくらでもある。これだけじゃないんですから。」

「ええ、ブルーライトメディアがもっと良いIPを見つけられることを願ってます。」野村香織は涼しげに言った。

青木翔は爆発寸前だった。渡辺大輔の二の舞になりそうで、スマートフォンを壊しそうになった。野村香織との会話は本当にイライラさせられると感じた。

電話を切ると、野村香織は冷笑した。青木翔にストレスを発散させたことで、鬱屈した気分が随分と晴れた。彼女は理不尽な人間ではない。青木翔をこのように扱ったのは、以前から渡辺大輔の前で彼女を馬鹿にしていたからだ。

ハザードランプを点け、路肩に車を停めた野村香織は小村明音に電話をかけた。「明音、主演女優さん。著作権は確保したわ。これからはあなたの頑張り次第よ。」

「うん、安心して。このチャンスを大切にするわ。」小村明音は甘く答えた。「香織ちゃん、すごすぎるわ。今回『スカイラブ』の著作権を獲得して、岡山美央子を怒らせただけじゃなく、青木翔まで出し抜いちゃうなんて。大絶賛よ!」