天満春生の表情を見ると、この透かし彫りの回転花瓶は本当に彼の大切なものだったようで、まるで娘を亡くしたかのような悲しい顔をしていた。
野村香織は軽く笑い、天満奈津子が叱られるかどうか気になりながら、携帯をポケットにしまい、仏間に戻った。
杉村俊二が彼女の側に寄り、小声で尋ねた。「大丈夫?ぶつかって痛くなかった?」
その言葉を聞いて、野村香織は心の中で頷いた。こんな時に彼女の心配をしてくれるなんて、本当に誠実で思いやりのある人だ。この人とは付き合っていける。
「天満社長、本当に申し訳ありません。私が転んだのは天満さんに後ろから押されたせいですが、結局のところ、この回転花瓶を倒したのは私です。責任は取らせていただきます」と野村香織は天満春生に笑顔で言った。
その言葉が終わらないうちに、天満奈津子は尻尾を踏まれた猫のように飛び上がって叫んだ。「何を言ってるの?誰があなたを後ろから押したって?あなたが自分で写真を撮ろうとしてバランスを崩しただけでしょ?私に何の関係があるの?弁償できないなら、はっきり言えばいいのに、私に濡れ衣を着せる必要なんてないわ」
傍らの相田珠美は眉をひそめ、天満奈津子と野村香織の間で視線を行き来させた。彼女は二人の表情を観察し、誰が嘘をついているのか見極めようとしていた。もし野村香織の言う通りなら、この事件の性質は全く変わってしまう。彼らが正しいと思っていたことが間違いになってしまう。
最も重要なのは、杉村俊二が彼女のことを義母と呼んでいることだ。真偽はともかく、今夜の野村香織は杉村俊二の彼女なのだから、野村香織の面子を立てないまでも、杉村俊二の面子は立てなければならない。さらに杉村俊二に説明もしなければならない。そうしないと、彼らの関係がこの件で悪化する可能性が高く、それは彼女が最も避けたいことだった。
「奈津子の言う通りよ。弁償できないなら、はっきり言えばいいじゃない。杉村俊二の彼女だということで、謝罪してくれれば済むことよ。将来は一家族なんだから、こんな風に私の娘を中傷する必要はないわ」と相田珠美は急いで娘を擁護した。
母娘が野村香織と言い争う様子を見ながら、天満春生は青ざめた顔で立ち尽くし、時折床の破片を見つめていた。入室してから今まで、一言も発していなかった。