小林弘も表情を凍らせた。野村香織を見てから彼女の美しさに魅了されていたが、突然警察が来たと聞いて我に返った。小林お爺さんがまだ立ち去ろうとしないのを見て、彼は注意を促した。「お父さん、とりあえず帰りましょう。警察と鉢合わせになったら、この件は大ごとになってしまいます。寺は逃げても坊主は逃げられないように、彼女たちを懲らしめる時間はいくらでもありますから」
小林お爺さんは小林弘と夏川静香がしたことを知らなかった。彼は体面だけを気にする人で、今日小林家でこんな大きな恥を晒したので、自ら来て穏便に済ませようとしたのだが、野村香織が予想通りに動かず、強硬にも懐柔にも応じなかった。
今や警察まで巻き込んでしまった。奉天市の名門として、官界でも裏社会でも小林家の知り合いがいないところはなく、警察が知れば全員が知ることになる。そうなれば武田家の面子はどうなるのか?
もともと夏川静香という嫁を気に入っていなかったが、長男の小林弘が何度も説得し、どうしても夏川静香を小林家に迎えたいと言い張ったため、仕方なく承諾したのだった。
今や事態がこうなってしまい、小林家の面目は夏川静香によって丸つぶれだ。小林家で最も発言力のある人物として、彼は絶対に夏川静香を小林家に留めておくつもりはなかった。
もちろん、今日野村香織のところで面目を失ったことは、彼の威厳を完全に失わせることになった。だからこの恨みは必ず晴らさねばならない。桜花グランドホテルが存在する限り、野村香織に対抗する手段はいくらでもあるのだ。
皆が話している最中、一人の警察官が口を開いた。「我々は奉天市西部警察署第五課の警察官です。先ほど、桜花グランドホテルで強姦事件があったという通報を受けましたが、どなたが通報されましたか?」
野村香織は笑って言った。「私が通報しました!」
強姦という言葉を聞いて、小林家の人々は一斉に顔色を変えた。小林お爺さんは慌てて言った。「ああ、通報者の言い間違いだと思います。強姦ではありませんし、先ほど確認したところ、これは単なる誤解です」
「誤解ですか?」警察官は眉をひそめ、思わず野村香織を見た。結局彼女が通報者なのだから。