小林お爺さんは胸に怒りを抱えたまま、車から降りるなり低い声で尋ねた。「その野村香織とは一体何者なんだ?」
同じく車から降りた夏川静香は、その言葉を聞いて表情が凍りついた。もともと彼女は小林珠希と共謀して野村香織を陥れようとしたのは、野村香織が裕福な家庭から追い出された女だと思っていたからだ。確かに何かのエンターテインメント会社を持っているようだが、その程度の事業が小林家と比べられるはずもなく、だからこそ野村香織に対してあれほど無遠慮に攻撃できたのだ。しかし先ほどホテルで渡辺大輔が自ら野村香織を探しに行くのを見て、自分の考えがいかに愚かだったかを悟った。
名家から追放された女、無一文で追い出された女、拝金主義者など、そういったレッテルは全てここ3年の間に貼られたものに過ぎない。高校の女子同級生たちは野村香織のことを茶飲み話のネタにしていたが、結局のところ野村香織は高校時代、学校一の美人として認められ、数多くの男子生徒の心を虜にしていたのだ。しかし先ほど目にしたのは、彼女たちが想像していたものとは全く異なる状況だった。