渡辺大輔を見た小林お爺さんは表情を変え、先ほどまで野村香織のことばかり気にしていて、彼女に付き添ってきた渡辺大輔のことを見落としていた。野村香織は金持ち家庭の離婚した女性だと言われていたが、この大晦日に渡辺大輔が野村香織と一緒に小林家に来るとは?
考えれば考えるほど小林お爺さんは信じられず、心中は混乱していた。今夜、あの連中が野村香織に手を出した時、渡辺大輔はずっとその場にいたのではないか?
小林お爺さんの顔色が青ざめた。もしそうだとしたら、小林家は何の理由もなく渡辺大輔の怒りを買ってしまったのではないか?
しかし、野村香織は彼に考える時間を与えなかった。すぐに4階から彼をほとんど気絶させそうな破壊音が聞こえてきた。先ほどまで麻雀をしていた4人が最初に衝撃から立ち直り、一斉に上階へ走り、野村香織を止めようとしたが、階段口に立ちはだかる渡辺大輔を見て、全員が足を止めた。
小林珠希は罵声を浴びせながら突進しようとしたが、渡辺大輔の急所を狙った一蹴りを胸に受け、気絶しそうになった。渡辺大輔が冷たい表情で、誰が近づいても容赦しない様子を見せると、小林弘は納得がいかず、自分は普段から筋トレをしているからと、拳を振り上げて渡辺大輔に向かっていった。
「バン!」また一蹴り。拳がいくら速くても、足の攻撃範囲には及ばない。
小林弘は突進してきた速さの2倍の勢いで階段を転げ落ちた。小林家の階段にカーペットが敷かれていなければ、この転落で相当な外傷を負っていただろう。
小林美智子と小林百合子は階段の踊り場に立ち、悲鳴を上げ続けた。「大変!暴力です!不法侵入者が暴れています!早く警察を呼んで!」
小林家の娘たちの悲鳴に合わせて、野村香織は警棒を振り回し、最後の骨董品を粉々に砕いた。周りを見回して、初めて満足げな表情を浮かべた。
地面から這い上がってきた小林珠希を見て、野村香織は唇の端を上げ、警棒を持って彼の前に立った。「小林次男様、なかなか頑丈なのね。怪我もしていないみたいだわ?」
この小林珠希は、奉天市全体で有名な女好きだった。元々腹に溜まっていた怒りを発散させようとしたが、野村香織の手にある警棒を見た瞬間、すぐに黙り込んだ。