第273章 渡辺社長も食欲を感じる時がある?

野村香織は笑って言った。「青木若旦那、慌てているんですか?そんなことないですよ。私はただのサマーさんの上級アシスタントですから、人を食べたりしませんよ。」

その言葉を聞いて、青木翔は思わず渡辺大輔を一瞥し、笑いながら言った。「へへ、野村アシスタントの冗談でしょう。サマーさんの上級アシスタントになれるなんて、ただの人物じゃないはずです。」

彼は野村香織がどれほど凄いのか知らなかったが、サマーさんに重用される人物は、必ず並外れた能力を持っているはずだ。それに、もし野村香織に何かしようものなら、野村香織が手を下す前に、渡辺大輔が真っ先に彼を「バッサリ」するだろう。

この若いカップルの間で、彼という部外者の立場は居心地が悪く、どちらも敵に回したくない相手だった。本当に恐ろしい!

そのとき、ウェイターが野村香織の料理を運び始めた。次々と美味しそうな料理がテーブルに並べられた。サーモンの刺身、甘エビ、ホッキ貝、ウニの刺身、海藻巻きなど。野村香織は渡辺大輔たちのことは気にせず、自分の料理を楽しんでいた。一方、渡辺大輔と青木翔は向かい側で見ているだけだった。彼らの注文した料理はまだ出来ていなかったからだ。

野村香織は笑いながら言った。「では、いただきます。渡辺社長、青木社長。」

そう言いながら、彼女は本マグロの大トロを一切れ取り、その上に薄くわさびを塗り、優雅にゆっくりと口に運んだ。ピンク色の唇にはわずかなわさびの緑が残り、照明に照らされて鮮やかなキャンディーカラーに輝いていた。思わず一口かじりたくなるような光景だった。

以前、渡辺大輔と青木翔は野村香織とほとんど一緒に食事をしたことがなく、たまの集まりでも彼女を脇に置いていた。一目見る価値もないと思っていたのだ。なぜなら、彼女のような見た目だけが良い女性は、上流社会では何の価値もなく、相手にされなかったからだ。

今、野村香織が小さな口で美食を楽しむ様子、ゆっくりと噛みしめ、優雅で落ち着いた姿を見ていると、まるでグルメドキュメンタリーを見ているような気分になった。その優雅さは決して作り物ではなく、普通の家庭では育てられないものだった。

渡辺大輔と青木翔は野村香織の食事を見つめ続け、少しも気まずさを感じることなく、むしろ堂々とした態度を見せていた。その厚かましさは、確かに一般人とは比べものにならなかった。