午後五時二十分、野村香織は水雲亭の駐車場に車を停めた。ここは彼女にとってはまだ馴染みのある場所で、渡辺大輔と結婚する前にも何度か商談で訪れたことがあった。
ここの案内係はとても丁寧で、遠くから彼女を見かけるとすぐに迎えに来た。「野村社長、お待ちしておりました。渡辺社長は既にお着きです。水月亭個室までご案内させていただきます。」
水月亭は、水雲亭で最高の個室で、普段は一般客には開放されていない。河東市全体でもここで食事ができる資格のある人は少なく、渡辺大輔が予約と言えばすぐに予約が取れるということは、彼が河東市でどれほどの影響力を持っているかを物語っていた。
案内係について水雲亭に入ると、中は迷路のようで、エレベーターで3階まで上がり、さらに何度も曲がりくねった後、ようやく水月亭個室の入り口に到着した。