斎藤雪子はすぐに理解した。「はい、野村社長。承知いたしました」
野村香織は控えめな性格で、表に出ることを好まない。秘書である彼女はそのことをよく分かっていた。招待状が届いた以上、野村香織に一応確認せずに断るのは失礼だと思い、聞いてみただけだった。
車に乗り込んだ直後、野村香織の携帯が鳴った。小村明音からかと思ったが、川井若菜からの着信だった。少し考えてから電話に出た。「若菜?」
電話の向こうで、川井若菜は恥ずかしそうに言った。「お姉様、お電話させていただいて、ご迷惑じゃないでしょうか?」
お姉様と呼ばれ、野村香織の気分は良くなった。そこで笑顔で答えた。「もちろん迷惑なんかじゃないわ。何かあった?」
川井若菜は笑って言った。「お姉様、今週末が私の誕生日なんです。小さなパーティーを開こうと思っていて、お姉様にもぜひ来ていただきたいんですが、お越しいただけますでしょうか?ああ、4月10日なんですけど、大丈夫でしょうか?」
今や川井若菜の心の中で、野村香織は唯一の憧れの存在だった。特にあの夜、渡辺大輔は彼女に相応しくないと公言した場面は、彼女の幼い心を完全に虜にした。そんな憧れの人を誕生日パーティーに招待できることは、彼女の夢にも思っていなかったことだった。
もちろん、彼女は川井遥香の妹であり、川井遥香と渡辺大輔は幼なじみの兄弟だった。年齢は若いものの、野村香織と渡辺大輔の間のすべての因縁を目撃してきた人物でもあった。そのため、この電話をかけるまでにかなり悩んだのだった。
川井若菜の声は柔らかく可愛らしく、慎重さと緊張が滲み出ていた。一言でも間違えて野村香織を怒らせてしまうのではないかと恐れていた。彼女は完全に緊張状態で、かわいい両耳を澄まして、野村香織の返事を待っていた。返事があるまで、どんな答えが返ってくるのか全く予想がつかなかった。
野村香織は考え込むように言った。「4月10日は、日曜日?」
川井若菜は急いで頷いた。「はい、そうです」
野村香織は承諾した。「大丈夫よ。その日はちょうど休みだから。パーティーの場所の詳細は、後でメッセージで教えてくれる?」
電話の向こうで、川井若菜は嬉しさのあまり飛び上がりそうになった。興奮で頬を赤らめ、抑えきれない悲鳴を上げた。「本、本当ですか?お姉様が本当に私の誕生日パーティーに来てくださるんですか?」