第539章 呪虫

黒川さんは私をじっと見つめて言った。「お嬢さん、あなたは運がいい。私に出会えたのは幸運だよ。この毒は私以外に解毒できる者はいない。ただし、時間がかかるし、少し苦しむことになるがね。」

私はうなずいた。構わない、時間がかかるということは、まだ生きられるということ。苦しみなら、慣れているから何とも思わない。

「実を言うと、あなたたちは誰かに計略にはめられたんだ。あの加藤律が、この事件の発端だ。彼が最初に蠱毒を仕掛けられた。だが、彼の蠱毒には毒がなく、命に関わるものでもない。ただ見た目は危険で、死にそうな様子だった。彼を救うために、きっと何でも承諾したんだろう。あなたが承諾した時点で、罠にはまったんだ。あの卑しい女の目的は、あなたの血だったんだよ。」

私の——血?

私は困惑して黒川さんを見た。

黒川さんはうなずき、ため息をついた。「あなたの血は至宝だ。我々の独自の呪術で培養し精製すれば、最も貴重な薬材になる。百病を治すとまでは言わないが、一般的ながんなどの病気や、延命、強壮などには効果てきめんだ。」

私は目を見開き、信じられない思いで黒川さんを見つめた。

彼は何を馬鹿なことを言っているのか?

「先生は、私の血を見たことがあるのですか?」私は苦しそうに言った。

黒川さんは意外にもうなずいた。

傍らにいた林詩乃が急いで言った。「ああ、昨夜、先生が到着したときに、あなたの血液サンプルを見たんです。」

林詩乃の表情には何か異様なものがあった。

黒川さんは笑った。「見たのではない、あなたの血を少し味わったんだよ。」

私は彼の笑顔と言葉に驚き、背筋が冷たくなった。

私は林詩乃を見た。

林詩乃は目を伏せ、軽くうなずいた。

黒川さんは私を見て、嘲笑した。「お嬢さん、現代科学のやり方は、我々の最も古い邪道には全く通用しない。あの卑しい女があなたの血を欲しがるのも、研究のためではなく、食べるためなんだよ!」

私の心は凍りついた。彼の言うことは正しかった。

「なぜ私の血がそんな特別なものなのですか?」私は心の疑問を口にした。

黒川さんは少し笑い、その表情には何か哀れみが混じっていた。「——それは、あなたの運命だよ。」