109 良心に背いて話す

結婚したばかりの頃、藤丸詩織は恥ずかしそうに彼を訪ねてきて、二人の日用品をペアアイテムに変えられないかと尋ねた。

桜井蓮は当時、冷たく藤丸詩織に言ったことを覚えている。「俺が君と結婚したのは祖父に強制されたからだ。自分の生活習慣を変えるなんて期待するな!」

そして藤丸詩織は用意していたペアマグカップを手に、その場に立ち尽くし、目を赤くしていた。

彼は藤丸詩織が泣きそうな様子を見て、さらにイライラし、二つのカップを奪い取って力いっぱい床に叩きつけ、ドアを蹴って出て行き、散らかった部屋だけを残した。

水野月奈は桜井蓮が物思いに沈んでいる様子を見て、思わず笑みを浮かべ、桜井蓮の腕を揺らしながら甘えるように言った。「蓮お兄さん、お願い!」

桜井蓮はその時、水野月奈を見ながら、かつての藤丸詩織の姿が重なり、目の前がぼんやりとしてきて、無意識に「いいよ」と答えた。