109 良心に背いて話す

結婚したばかりの頃、藤丸詩織は恥ずかしそうに彼を訪ねてきて、二人の日用品をペアアイテムに変えられないかと尋ねた。

桜井蓮は当時、冷たく藤丸詩織に言ったことを覚えている。「俺が君と結婚したのは祖父に強制されたからだ。自分の生活習慣を変えるなんて期待するな!」

そして藤丸詩織は用意していたペアマグカップを手に、その場に立ち尽くし、目を赤くしていた。

彼は藤丸詩織が泣きそうな様子を見て、さらにイライラし、二つのカップを奪い取って力いっぱい床に叩きつけ、ドアを蹴って出て行き、散らかった部屋だけを残した。

水野月奈は桜井蓮が物思いに沈んでいる様子を見て、思わず笑みを浮かべ、桜井蓮の腕を揺らしながら甘えるように言った。「蓮お兄さん、お願い!」

桜井蓮はその時、水野月奈を見ながら、かつての藤丸詩織の姿が重なり、目の前がぼんやりとしてきて、無意識に「いいよ」と答えた。

水野月奈は歓声を上げ、桜井蓮を連れてカップル向けの家具・雑貨専門店に入った。

水野月奈はこんなにもたくさんのデザインがあるとは思わず、少し困った様子で、小さな声で桜井蓮に言った。「蓮お兄さん、目移りしちゃって、どれも可愛くて、どれを買えばいいか分からないわ。」

桜井蓮は優しく言った。「好きなものを全部買えばいい。」

水野月奈は頬を赤らめ、つま先立ちになって桜井蓮の頬にキスをし、すぐに小走りで離れた。

桜井蓮の後押しを得て、水野月奈は買い物の際にもう困ったふりをする必要がなくなり、気に入ったものを全て店員に包んでもらうことにした。

店員たちはこれほど気前の良い客は初めてだった。なにしろ、彼らの店の商品は決して安くないし、会社の規定では、顧客の購入額が多いほど、彼らの歩合給も高くなるのだ。

そのため、水野月奈は彼らの目には輝く札束として映っていた!

店員たちも褒め言葉を惜しまず、水野月奈に興奮した様子で尋ねた。「あのイケメンの方はお客様の旦那様ですか?」

水野月奈は店員の言葉を聞いて、危機感を覚え、表情を冷たくし、敵意のこもった声で尋ねた。「私たちはもうすぐ結婚するの。もし彼のことを好きになったなら、今のうちにその考えは捨てなさい。そうしないと、ただじゃ済まないわよ。」