265 刺繍品

藤丸詩織は手首のブレスレットを見せながら、笑顔で答えた。「榊蒼真さんが先ほど誕生日プレゼントを持ってきてくれたの」

橘譲は唇を引き締めた。

藤丸詩織は橘譲の些細な仕草に気付かず、続けた。「榊蒼真さんは海外の仕事が忙しくて、プレゼントを渡したらすぐに帰っていったわ」

橘泉は「これらのプレゼントは全部彼からなのか?」と尋ねた。

藤丸詩織はその言葉を聞いて、テーブルの上の贈り物の箱を見つめ、軽く首を振った。「いいえ、これらは桜井蓮からよ」

桜井蓮?

橘泉と橘譲は眉をひそめ、次の瞬間、二人は「さっ」と立ち上がって、ドアの方へ向かった。

藤丸詩織は二人の動きを見て驚き、不思議そうに尋ねた。「二兄さん、三兄さん、どうしたの?」

橘泉は怒りを込めて言った。「桜井蓮を懲らしめてやる。昼間会った時は見逃してやったのに、夜になってまた来るとは!」

橘譲は同意して頷いた。「その通りだ!」

藤丸詩織は「でも、桜井蓮はもう帰ったわ」と言った。

橘泉は「帰った?」と聞き返した。

藤丸詩織は頷いた。

橘譲は外から戻ってきて、「二兄さん、外には誰もいませんでした」と報告した。

橘譲は不思議そうに尋ねた。「詩織、警備員はどうして桜井蓮を入れたんだ?」

彼は確かに詩織が以前警備員に桜井蓮を入れないよう注意したことを覚えていた。記憶違いか、それとも警備員が密かに入れたのだろうか?

橘泉もそのことを思い出し、「警備員を呼んで確認してみよう」と言った。

藤丸詩織は橘泉を止め、目を伏せて言った。「警備員は桜井蓮を入れるはずがないわ」

橘泉は「つまり、桜井蓮がこっそり入ってきたということか?」と尋ねた。

藤丸詩織は頷いて、「そうよ」と答えた。

橘泉は皮肉を込めて言った。「桜井グループの社長がそんなことをするとは思わなかったな」

橘譲は同意して頷いた。

橘譲は興味深そうに尋ねた。「詩織、桜井蓮は何をくれたの?」

藤丸詩織は贈り物の箱を開け、中のブレスレットが一目で目に入った。

橘譲は近寄って来て、批判的に言った。「ブレスレットは綺麗だけど、なぜ血痕がついているんだ?」

血痕?

藤丸詩織はブレスレットに目を落とし、しばらく考えてから答えた。「このブレスレットは、たぶん彼が自分で作ったものよ」