298 桜井蓮は嫉妬しているようだ

藤丸詩織は以前に記憶喪失になったせいか、学生時代のことをあまり覚えていなかった。

藤丸詩織は正直に答えた。「覚えていません」

藤丸志穂は歯ぎしりしそうになった。付き合っていた彼氏のことさえ覚えていないなんてありえない、藤丸詩織が今ごまかしているとしか思えなかった!

藤丸志穂は腹が立ったが、表面上は笑顔を作って言った。「あはははは、詩織を追いかけた人が多すぎて、すぐには思い出せないのかもね」

藤丸詩織は藤丸志穂とこういったプライベートな話をしたくなかったので、ただ頷いて適当に相槌を打ち、それ以上口を開かなかった。

しかし、藤丸詩織と藤丸志穂が気にも留めなかったこの話題を、桜井蓮は心に留めていた。そして、すぐにある考えが浮かんだ。

藤丸詩織はとても優秀で、当時彼女を追いかけた人も多かった。桜井蓮は彼女が恋愛経験がないとは信じられなかった。今の「覚えていない」というのは、おそらく何人と付き合ったか覚えていないということだろう!

桜井蓮はそう考えると、藤丸詩織が様々な男性と一緒にいる場面が頭に浮かび、心が沈み、非常に不愉快になり、表情もますます冷たくなった。

藤丸志穂は藤丸詩織に冷たくされて気分が良くなかったが、桜井蓮と繋がりを持ちたいという焦りから、彼の暗い表情にも気付かなかった。

藤丸志穂は笑顔で言った。「以前雑誌で桜井社長も海外留学されていたと拝見しましたが、さすが桜井社長のような優秀な方の通われた学校も素晴らしかったでしょうね」

桜井蓮は「海外」という言葉を聞いて、反射的に答えた。「私は当時恋愛はしていません」

藤丸志穂は固まった。今の質問は恋愛のことではなかったはずだ。

藤丸詩織は意外そうに桜井蓮を見た。ビジネスの世界で手のひらを返すように立ち回る桜井社長が、こんな勘違いをすることがあるなんて。

桜井蓮は自分に向けられた二つの視線に気付き、やっと藤丸志穂の質問の内容と自分の答えを理解した。表情に一瞬の戸惑いが見えたが、すぐに普段の様子に戻った。

藤丸志穂は桜井蓮の落ち着いた様子を見て、笑顔で言った。「桜井社長は若い頃から品行方正だったのですね。だからこそ大成功を収め、桜井家をこれほど発展させることができたのでしょう」