桜井蓮は一瞬驚き、藤丸詩織に視線を向けると、目を閉じて決意を固めて言った。「もちろんです!」
水野月奈は笑みを浮かべたが、桜井蓮が藤丸詩織のために同意したことを思うと、心の底から不快で、目を伏せて冷たく言った。「藤丸詩織を救うために、そこまでの犠牲を払うつもりなの?」
桜井蓮は水野月奈の感情がさらに激化することを恐れ、急いで言った。「いいえ、詩織のためじゃありません。」
水野月奈は「じゃあ、何のため?」
桜井蓮は少し考えて、ようやく理由を見つけた。「あなたが私を二度も救ってくれたからです。恩人であるあなたと結婚することは、恩返しとして当然のことです。」
彼はこう言えば水野月奈が藤丸詩織を許してくれると思ったが、予想に反して彼女の表情はさらに冷たくなった。
水野月奈は狂気じみた表情で「でも、あの時あなたを救ったのは私じゃなかったの。私はただあの人の手柄を横取りしただけ。今、真実を知って、もう私と結婚する気はないでしょう?」
桜井蓮は呆然として、信じられない様子で「あ、あなた、何を言っているんですか?」
水野月奈は桜井蓮に答えず、藤丸詩織の顔に視線を向け、手にした刃物を見つめながら静かに言った。「実際にはあなたが詩織のためにしているのは分かっています。どうせ私の正体がバレた今、あなたと結婚しても幸せにはなれない。だったら、あなたの愛する人を殺して、私も死んでしまえば、損はないでしょう。」
桜井蓮は水野月奈が掲げた刃物を見て、怒りで瞳孔が開き、彼女の方へ駆け寄った。
藤丸詩織はようやく縄を解き、心の中でほっとして、手を伸ばして水野月奈を押しのけ、さらに足で蹴り飛ばした。
しかし、ちょうど桜井蓮が駆けつけてきたところで、水野月奈は彼の腕を掴んで藁にもすがる思いで、右手の刃物が彼の体に突き刺さってしまった。
「ズブッ——」
血液が噴き出し、水野月奈の顔に飛び散った。
彼女は先ほど全身の力を込めており、刃物は桜井蓮の体に完全に刺さっていた。
水野月奈は目の前の光景に呆然とし、手に付いたべとべとした血を感じ、震える指で刃物を離すと、慌てて藤丸詩織を見て、「あなたが私を蹴ったせいよ、そうでなければ蓮さんを傷つけることはなかった。そう、全部あなたのせいよ!」
彼女は突然立ち上がり、目を赤くして藤丸詩織に飛びかかった。