057 このパスワードは簡単

アパートに着くと、蘇我紬はお礼を言った。

林与一はすぐにドアロックを解除せず、「次の検診の時、一緒に行かせてもらえないか?男性が付き添った方が良いと思うんだが、どうだろう?」と尋ねた。

蘇我紬の目が揺れ、まだ落ち着いていなかった感情がさらに乱れた。こんなことまで気づいていたのか?

検診に来る人のほとんどはカップルで、一人で来る人は珍しい。そういう人には、いつも誰かが探るような目で見ている。その視線は、夫が一緒に来ていないのねと言っているようだった。

当時の蘇我紬は脆くなかった。むしろ気にも留めていなかった。

今、林与一に指摘されて初めて気づいた。それまでの自分は自己欺瞞に過ぎなかったのだと。

気にしない人なんているだろうか?

「はい。」

蘇我紬の承諾に林与一の気分は一気に良くなり、すぐにドアロックを解除して車を降り、反対側に回って蘇我紬のドアを開け、笑顔で「部屋まで送りましょうか?」と言った。