蘇我紬が車から降りた時、小さな心臓がまだ激しく鼓動していた。
運転手が思い出せなかったなら、今日は大変な目に遭うところだった。産婦人科病院を見ながら、彼女は近くのスーパーマーケットに向かい、帽子とマスクを購入してから病院に入った。
彼女は総合病院ではなく、専門病院を選んだ。専門病院の方が的確な診療が受けられ、三級甲等病院でもある。大病院ほどの名声はないかもしれないが、蘇我紬にとってはそれが却って良いことかもしれなかった。
医師さえ優秀なら、何も問題はないのだから!
蘇我紬の妊婦健診はとても早く進み、すぐに医師との最終診察の段階となった。全ての検査結果を持って診察室に入ると、担当医は誰かと話をしているところだった。
蘇我紬が入室するのを見るや、すぐに会話を中断し、座るように促した。
「現時点での検査結果には何も問題はありません。残りの検査結果が出たら、蘇我さんにもう一度来ていただければ結構です。」
蘇我紬は頷き、「ありがとうございます。お手数をおかけします。」と笑顔で答えた。
「はい、次回は4週間後に健診をお願いします。」医師は次回の予約時間を手配しながら、蘇我紬の都合を確認した。
しかし、一ヶ月後の予定は蘇我紬にも確実には分からなかった。
蘇我紬は携帯を取り出し、「先生、連絡先を交換させていただいて、時間に問題なければ直接来院し、用事がある場合はご連絡させていただくということでよろしいでしょうか?」と笑顔で尋ねた。
医師は快く承諾し、全ての検査結果と予約時間を記した書類を蘇我紬に手渡した。
蘇我紬は立ち上がって礼を言い、その場を後にした。
医師はその時、横を向いて「林先生、お待たせしました。続けましょうか?」と声をかけた。
林与一の視線は蘇我紬が去るまで追い続け、ようやくゆっくりと立ち上がると、申し訳なさそうに「また改めて来ます。今日は結果を受け取るのは止めておきます。」と言った。
「そうですね。」
...
蘇我紬が診察室を出て数歩も歩かないうちに、肩に手が置かれた。振り向くと、マスクを外した林与一の姿があった。
彼女は今、完全に混乱状態だった。
まばたきをしながら何か言おうとしたが、言葉が出てこず、どう反応すればいいのか分からない状態だった。