蘇我紬は動けなかった。
心の中の怒りを抑え、彼と争わないように自分を強制した。離婚を言い出した日から、彼に何ができないというのだろう?!
あの日から、影山瑛志は変わってしまった。
もはや彼女の心の中の姿ではなくなっていた。この時、林与一のことを思い出すと、誰もが初めて出会った時はそうなのかもしれない。上から下まで全てが素晴らしく見えるのだろうか?
以前の蘇我紬なら、一言一句全てを言い表せただろう。
しかし今は、もう望むことすらしなくなっていた。
彼女はその人が存在しないものとして、キッチンに向かい冷蔵庫を開けた。中は空っぽだった。以前ここに住んでいなかったので、何も買っていなかった。すぐにスマートフォンを開き、アプリで新鮮な野菜と食べたい果物を注文した。
幸い、このキッチンには調理器具が揃っていた。