337 草を打って蛇を驚かす

彼女は、自分がこの話をしなければ、瑛志はきっと黙って全てを処理するだろうと信じていた。でも、もうこのままではいけないと思い、瑛志を助けたいと思った。

瑛志から約束を得た後、蘇我紬はようやく会社を後にした。

帰り道で、紬は久世澪からの電話を受けた。

「紬、今どこにいるの?迎えを寄越すから、家に帰ってきて。少し話があるの」

久世澪の声は穏やかに聞こえたが、紬の心には不安が募るばかりだった。

前回の動画が出回った時は、事態が大きくなる前に瑛志が押さえ込んでしまったので、久世澪は動画のことを知らないかもしれない。

しかし今回は、瑛志でさえ手の施しようがない状況だった。

久世澪が見たときにどんな気持ちだったのか分からない。

「お母さん、今車の中だから、すぐに帰るわ」紬は感情を隠すように努めた。

「そう、気をつけて帰ってきてね。家で待ってるから」

「うん」

電話を切ると、紬は運転手を急かした。

「お母さん、ただいま」

紬は緊張していたが、久世澪がのんびりとした様子を見せていたので、その緊張は少し和らいだ。

家に帰ると、久世澪はソファに座ってコーヒーを楽しんでいた。物音を聞いて、やっとカップをテーブルに置いた。

「こっちに座りなさい」

久世澪は紬にもコーヒーを注ごうとしたが、眉をひそめて、代わりにフルーツジュースに変えた。「今妊娠中だから、コーヒーは控えめにしないと。ジュースの方がいいわ」

久世澪はフルーツジュースを紬に手渡した。

紬は両手で受け取り、「ありがとう、お母さん」と言った。

久世澪はコーヒーを一口すすってから言った。「紬、瑛志から影山家と林家の関係について聞いたでしょう?」

紬は反射的に久世澪も林与一を疑っていると思い、急いで答えた。「知ってます。でも、これは林与一さんとは関係ありません…」

久世澪は思わず笑った。「紬、何を考えているの?あの子には会ったことがあるわ。いい子よ。ただ、あんな母親を持ってしまったのが不幸ね」

今度は紬が困惑した。まだ知らない話があるのだろうか?