437 海外に到着

これは想像していたのとは違うわ。

蘇我紬が亡くなって、影山瑛志の紬への思いからすれば、こんなに早く立ち直るはずがないのに？

瑛志が落ち込んで心が空虚な時に、彼を慰めて自分の良さを分かってもらい、そして近藤昭陽と離婚して、瑛志と結婚するつもりだったのに。全てが自然な流れになるはずだったのに。

でも……

どうあっても、瑛志を手に入れなければ。

チャンスは簡単には巡ってこない。どんなに困難でも、彼の心を掴むために頑張らなければ。

そう考えを整理した後、江口希美は優しい笑顔を浮かべて部屋に入った。「瑛志さん、今日はだいぶ良くなられたみたいですね。もうすぐ退院できそうですね」

影山瑛志はお粥を食べる手を止め、その呼び方を聞いて眉をひそめ、食欲も失せた。彼は茶碗を置き、希美を見つめた。「江口さん、以前は紬が亡くなったこともあり、あまり気にしていなかったし、あなたのことを構う時間もなかった。でも今は、はっきりさせておかなければならない。妹として認めた以上、あなたも半分影山家の者だ。だから呼び方には気をつけてほしい。それに今は結婚しているのだから、そういった下心は捨てなさい」

蘇我紬がまだ生きているかもしれないと知り、しっかり養生しようと決めた後、瑛志は最近起こった出来事を細かく思い返してみた。紬が「亡くなった」後から、希美は呼び方を変えていたようだ。

呼び方自体はそれほど重要ではないし、彼もそこまで気にしないが、紬が知ったら、傷つくのではないだろうか？

希美は一瞬固まり、笑顔が凍りついた。心の内を見透かされ、表情が曇った。

でも諦めるわけにはいかない。近藤昭陽との結婚は祖父の願いを叶えるためだけだった。今は祖父も亡くなったのだから、自分の恋を追い求めてはいけないの？

それに、誘拐事件で二人の敵を一度に片付けられた。今争わなければ、あの事件を計画した意味がない。

希美は諦められなかった。必死に感情を落ち着かせ、再び笑顔を作って、「瑛志さん、私は……」

希美の言葉が途切れる前に、瑛志の冷たい視線が突き刺さってきた。彼女は震え、慌てて言い直した。「お兄さん……」

瑛志の表情がようやく和らぎ、再びお粥を手に取った。「何だ？」

希美は心の中で悔しさを感じたが、なぜか瑛志の怒った様子を見ると怖くなってしまう。