時田浅子も思いもよらなかったが、みんながこんなに気を遣ってくれて、あれだけの料理が全部食べ尽くされるとは!
山本おばさんは藤原時央のために再び食事を用意し、ちょうど彼に届けようとしていたとき、時田浅子が入ってきた。
「山本おばさん、私が藤原若旦那に持っていきます」
「ありがとう!」山本おばさんはすぐに食事トレイを時田浅子に手渡した。
時田浅子はトレイを持って藤原時央の部屋に入った。
藤原時央は物音を聞いても顔を上げず、淡々と言った。「そこに置いておいて」
時田浅子はトレイをテーブルに置き、その場に立ったまま。
しばらくの間、何と切り出せばいいのか分からなかった。
藤原時央は何かに気づいたようで、ようやくゆっくりと顔を上げた。
彼女だったのか?
老人に取り入るだけでは足りず、今度は彼に取り入ろうというのか?
彼は車椅子を動かし、時田浅子の方へ向かった。
「藤原若旦那、話し合いましょうか?」時田浅子は勇気を出して切り出した。
藤原時央は手を車椅子に置き、ゆっくりと顔を上げた。顎のラインは絵筆で描かれたかのように精緻だった。
彼の顔は、輪郭がはっきりとして、端正で凛々しく、眠っているときはどこか柔らかさがあるが、目覚めると、どこからも人を圧倒する鋭さと全てを押しつぶすような威厳が漂っていた。
時田浅子は彼の威圧感に圧倒されながらも、背筋を伸ばした。
「何を話したいんだ?」彼は淡々と口を開いた。
「私たちの結婚について」
「藤原奥様という立場は、かなり良いものだろう?」藤原時央は笑いながら尋ねた。
しかし、その笑みは目には届いていなかった。
こんな若い女の考えていることなど、彼は考えるまでもなく分かっていた。
藤原奥様の地位を手に入れただけでは足りず、時田浅子が本当に考えているのは、どうやって名実ともに藤原奥様になるかということだろう。
小娘め、年は若いが、野心は小さくない!
彼女は老人と母親の心を掴んだだけで、天狗になって分際をわきまえなくなったのか。
まさか、彼までも手に入れようと思っているのではないか?
時田浅子は彼の言葉に含まれる皮肉を感じ取った。
彼は彼女が彼にしがみついて、藤原奥様の地位を独占し続けたいと思っていると考えているのだろうか?