時田浅子は振り向いて携帯を探しに行ったが、ベッドサイドテーブルには一台の携帯電話しかなく、それも藤原時央のものだった。
彼女はようやく思い出した。彼女を誘拐した人物が、彼女の携帯電話を踏み潰したのだ。
電話もかけられず、彼女は本当に柳裕亮の状況を知る術がなくなった。
「一回だけ呼ぶから、ごまかさないでね」時田浅子は頬を膨らませて藤原時央を見つめた。
藤原時央はうなずいた。
「だ...だんな様」時田浅子の声は蚊のように小さかった。
「聞こえないよ」藤原時央は少しも面子を立ててくれなかった。
「だんな様」時田浅子はもう一度呼んだ。
藤原時央はようやく満足げにうなずいた。
「さあ、早く教えて!」
「柳裕亮は大丈夫だ。見深のところで朝まで点滴を受けて、もう帰った」
「よかった」時田浅子はほっと息をついた。「私、この件は私を狙ったものだと思うの。もし私のせいで他の人に迷惑がかかったら、心苦しくて」