総監督は何も言わず、時田浅子の方向を見て、また金恵の方を見た。
表情はやや厳しく、彼が今何を考えているのか誰にも分からなかった。雰囲気は少し重苦しくなった。
森山緑が前に進み出て、一言一句はっきりと言った。「藤井監督、金恵が時田浅子に謝罪すれば、この件は大事にならずに済みます」
「何だって?恵ちゃんが謝罪だって?森山、随分と大口を叩くじゃないか!これは時田浅子がスポンサーを後ろ盾にして好き勝手やっているということだ!」佐木晴樹は怒りながら反論した。
「謝罪しないのですか?それなら法的手続きに進みましょう。私は故意傷害罪で金恵さんを訴えます!」森山緑の威圧感は完全に佐木晴樹を押さえ込んでいた。
言い終わると、彼女は総監督の方を向いて言った。「藤井監督、私は先ほど休憩室でカメラを見ました。中で何が起きたのかは、録画を見れば一目瞭然です。それに…」
森山緑は一瞬言葉を切り、先ほど撮影していた高台の方へ歩いていった。
彼女は手を上げて指さした。
皆も彼女の指す方向を見て、そこにカメラが設置されているのを確認した。
「このカメラにもライトが点滅しています。写真を撮った時の状況がはっきりと記録されているはずです」
時田浅子は少し驚いて森山緑を見つめた。森山緑の観察力に感心していた。
これらの細部まで、森山緑はすべて気づいていたのだ。
佐木晴樹は言葉を失ったように、森山緑の言葉に反論できず、金恵を見るとさらに泥棒を棒で叩くような気持ちになった。
「藤井監督、私の理解では、この番組は視聴率だけを頼りに作られた単なる娯楽バラエティではありません。監督はこれだけ多くの実力あるアーティストを招き、皆さんはこのステージを重視し、監督を信頼して集まったのです。たった一匹のネズミのせいで鍋全体が台無しになるのは、あまりにもったいないことです」森山緑はさらに藤井監督に言った。
この発言により、もはや金恵と時田浅子の間の対立だけの問題ではなくなった。
金恵の行動は番組全体に影響を与えることになる。
藤井監督は最初、視聴率の問題も考慮していたが、今改めて金恵を見ると、本当に大きな問題だと感じた。
「森山さんが指摘したカメラの監視映像を取り出してください」
「藤井監督、少しお話できませんか?」佐木晴樹はすぐに言った。
藤井監督の表情は少し困ったようだった。