藤原航は近くにあったコップを手に取り、水を注いで島田香織に数口飲ませた後、ポケットからコーンキャンディーを取り出して彼女の口に入れた。
コーンキャンディーの甘い香りが唇に広がり、島田香織は少し意識が戻り、冷たい表情で藤原航を見つめて言った。「もう二度と会いたくない」
藤原航の冷たい瞳に一瞬の悲しみが浮かんだが、すぐに消え去り、落ち着きを取り戻すと、骨ばった指で島田香織の額に触れた。
彼の手は相変わらず冷たく、まるで年中溶けない雪山のようだった。
「まだ熱がある」藤原航は島田香織の布団をきちんとかけ直しながら言った。嫌悪感に満ちた瞳と目が合うと、つい昔の島田香織を思い出してしまった。
昔の島田香織はいつも情熱的な眼差しで自分を見つめていた。彼は彼女がそうして自分を見る姿が好きだった。当時は表面上は何も表さなかったが、心の中では嬉しく思っていた。
藤原航は薄い唇を固く結び、蒼白く引き締めながら、低い声で言った。「安心して、今すぐ帰るから。眠りなさい」
藤原航の言葉には何か魔力があるかのように、島田香織はまぶたが重くなっていくのを感じ、最後には耐えきれずに目を閉じて眠りについた。
島田香織が再び目を覚ました時には、すでに汗をかいていた。
「目が覚めたんですね」陣内美念は島田香織が目を覚ましたのを見て、手際よくカーテンを開け、素早く島田香織の元へ歩み寄り、額を合わせて確認すると、笑顔で体を起こした。「やっと熱が下がりましたね。何か食べたいものはありますか?奈奈さんに用意してもらいましょうか」
「おかゆでいいわ」島田香織は笑顔で体を起こしながら言った。頭の中は混乱していて、誰かがここに来ていた記憶はあるものの、それが誰だったのかはっきりとは思い出せなかった。
「分かりました。すぐに奈奈さんに伝えて、あと軽めのおかずも二品作ってもらいます」陣内美念はそう言うと、急いで外へ向かった。
このホテルには中華料理がなかったため、奈奈さんはホテルのキッチンを借りて、島田香織のために特別に料理を作っていた。
島田香織は微笑んで、静かにベッドに座り、窓の外を眺めた。明るい陽の光が差し込んできて、まるで時が静かに流れているような感覚を与えていた。