281 彼をいい加減にあしらう

島田香織の答えはとても簡単で、「あなたが好きならいいわ」「いいよ」といった感じだった。

藤原航は突然、この場面に既視感を覚えた。かつて島田香織と結婚した時も、彼女は同じように彼に尋ねたのだ。

ただし、その時は本当に島田香織の好みに合わせた結婚式を挙げたいと思っていた。

意外だったのは、藤原家は権力と財力があったにもかかわらず、島田香織はとてもシンプルな結婚式を選んだことだ。

でも今の島田香織は?

彼をいい加減にあしらっているようだ。

藤原航はもう何も聞かなかった。島田香織が今から彼への復讐を始めていることを知っていた。

食事の後、島田香織は「撮影現場に行くわ」と言って、外へ向かって歩き出した。

今日は天気が良く、島田香織は陽の光を浴びて、全身が温かかった。

「香織」

背後から藤原航の声が聞こえた。

島田香織が振り返ると、藤原航がレストランの入り口に立って自分を見つめているのが見えた。

彼の漆黒の無機質な瞳が、ずっと自分を見つめていて、その目の奥には優しさが満ちていた。この感覚は既視感があった。

島田香織は藤原航が何も言わないのを見て、二人はそのまま3秒ほど見つめ合い、それから視線を外して撮影現場へ向かって歩き出した。

まるで1年前、彼女が迷いなく藤原航との離婚を決意した時と同じように。

藤原航は島田香織の後ろ姿を見つめ、目には苦さが満ちていた。

彼は心の中でわかっていた。島田香織は本当に去ってしまったのだと。彼女は二度と彼のもとには戻らないのだと。

これから行われる結婚式は、ただの偽りの芝居に過ぎなかった。

ただ藤原航は今、その結婚式が少しでも遅くなることを願っていた。そうすれば島田香織はもう少し彼と話をしてくれるかもしれないから。

藤原おじいさんの催促で、藤原航は結婚式の準備を一手に引き受けることにした。

藤原昭子は藤原航の結婚式に対する態度を知り、また藤原おじいさんが島田香織のために用意した結納品を見て、心の中に何となく危機感が芽生えた。

彼女は藤原家の令嬢だが、今や安川市では悪名高い存在となっていた。

今では結婚したくても、おそらく誰も彼女を娶りたがらないだろう。

以前は、おじいさんが豪華な持参金を用意してくれると思っていたが、今となってはおじいさんが自分のことなど全く気にかけていないことがわかった。