島田香織は笑いながら言った。「あなたが山登りに行かないなら、私も行かないわ。一人じゃつまらないし」
「行ってくれない?山頂でコスプレイベントがあるって聞いたの。江田沢人さんのサインが欲しいの。サインを取ってきてくれない?」陣内美念は捨て犬のような目で島田香織に懇願した。
島田香織は目を細めて、陣内美念をじっと見つめながら問いただした。「そうだったのね。二次元美少女のあなたが古い町に来たがった理由は、江田沢人さんのサインが欲しかったからなのね!」
陣内美念は口を尖らせて言った。「そうよ。でも残念なことに生理になっちゃって。この町もおかしいわ。どうして下りのロープウェイしかないの?上りがあれば私も山頂まで行けたのに。そうすれば江田沢人様のサインを直接もらえたのに」
「で、何かいいことある?」島田香織は冷静に尋ねた。
「香織、お願い。後でご飯おごるから」陣内美念は甘えた声で言った。
それを聞いて、島田香織は頷いて言った。「いいわよ。約束だからね!ご飯一回おごってもらうわよ!」
島田香織は簡単に支度を整えると、一人でリュックを背負って出かけた。
実際、その山はそれほど高くなく、一時間半も登れば頂上に着けた。島田香織はこれを運動だと考えることにした。
島田香織が一時間ほど登ったところで、雪が降り始めた。今一番安全な方法は、そのまま山頂まで登って、そこからロープウェイで下山することだった。
島田香織が山頂に着いて江田沢人のサインをもらい、ロープウェイで下山しようとした時、スタッフに断られた。
「どうしてですか?」島田香織は困惑してスタッフを見た。
「お客様、ご不便をおかけして大変申し訳ございません。現在、雪と風が強く、ロープウェイでの下山は途中で危険な事態になる可能性が高いのです。ですが、ご心配なく。万全の準備をしております。休憩室がございますので、そちらでお休みください。天候が回復次第、下山のご案内をさせていただきます」スタッフは笑顔で説明した。
島田香織もそれはもっともだと思いながら、不思議そうに尋ねた。「観光地なのに、なぜロープウェイで山に登れないんですか?」
スタッフはその質問を聞いて笑いながら、丁寧に説明した。「主に、この山があまり高くないからなんです。ロープウェイで登ってしまうと、お客様が周囲の景色を楽しむ機会を失ってしまいます」