「陸田健児は中にいるの?」
「はい、島田お嬢様。陸田社長はちょうど目を覚まされたところで、中で座っておられます。島田お嬢様、どうか私たちの陸田社長を説得して、医師の治療に協力するよう、お願いします」と東山光は焦った表情で言った。
島田香織は何も言わずにドアを開けて入ると、陸田健児が携帯電話を見下ろしている姿が目に入った。彼は寂しげな表情をしていた。
「陸田社長」と島田香織はベッドの横まで歩いて声をかけた。
島田香織の声を聞いて、陸田健児は目を上げると、スーツ姿で立っている島田香織の姿が目に入った。
東山光が入ってきたのかと思っていたが、まさか島田香織だとは。
陸田健児の黒い瞳がわずかに揺れ、目に光が宿った。
東山光も後に続いて入ってきたが、島田香織と陸田健児の二人がずっと黙ったままなのを見て、焦りを感じ始め、前に出て言った。「医師の話では、陸田社長は危険は脱したものの、合併症には注意が必要だそうです」
東山光は弱々しく言い終えると、二人が無反応なのを見て、続けて言った。「あの、お二人でお話しされますか?」
「陸田健児」と島田香織は陸田健児のベッドの横に座り、顔を上げて彼を見た。なぜか、陸田健児のあの涼しげな目を見るたびに、心が落ち着かなくなり、彼から離れたくなる。できるだけ遠くへ。「なぜ医師に協力しないの?」
陸田健児は島田香織の冷たい様子を見て、心に奇妙な感覚を覚えた。もし体調が悪くなければ、とっくに島田香織の前に行って、催眠にかけられたのではないかと尋ねていただろう。
「香織、僕に怒ってるの?」陸田健児は島田香織から目を離さずに尋ねた。
陸田健児が今、島田香織を呼び寄せることができたのは、アンナを騙して遠ざけることができたからだ。アンナはこの二日間、安川市には現れないはずだ。
島田香織はベッドの横の椅子に座り、穏やかな口調で言った。「いいえ」
島田香織の言葉を聞いて、陸田健児は顔を上げて彼女を見た。
島田香織はいつもと変わらず美しく、薄化粧を施し、全身から活気が溢れ、まるで金色の光を放っているかのようだった。
陸田健児は急いで尋ねた。「それとも、藤原航があなたの彼氏だから、僕のような男性の友人とは付き合いたくないの?」
陸田健児の言葉は、島田香織の心の静かな湖に投げ込まれた巨石のように、波紋を広げていった。