致命の裏切り

 運命は私の前世のすべてを奪った。それは、おそらくこの世で最高のあなたを私に授けるためだったのだろう。

 ——工藤みやび(くどう みやび)。

 「もう、私の体はあと何年ももたない。このチャンスを逃したら、もう二度とムンバイ型の心臓なんて手に入らないかもしれない……死にたくない、本当に、死にたくないの……!」

 「でも、彼女はあなたを助けたのよ……」

 「彼女の心臓を私に移植すること、それが本当の意味で私を救うってことだよ!ママ……私、死にたくない……あなたたちのそばを離れたくないの……!」

 ICU病室のベッドで、刺傷によって二ヶ月間昏睡状態だった工藤みやびは、ついに声を聞いた。

 その声は……

 堀夏縁(ほり かえん)?

 堀夏縁は先天性心臓病を患っていたが、稀少なムンバイ血液型のため、移植できる心臓が見つからず、医師からは25歳まで生きられないと宣告されていた。

 そして彼女も、同じくムンバイ血液型だった。

 今、彼女は私の心臓を移植したいと言っているの?

 彼女は全力を振り絞って、目を開けようと努力した。

 彼女は死んでいない、心臓を移植させるわけにはいかない。

 鈴木香(すずき かおり)は突然、病床の人が目を開けたのを見て、顔色が真っ青になった。

 「……みやび」

 堀夏縁は声を聞いてベッドに横たわる人の方を振り向き、顔には恐怖の色が満ちていた。

 いつ目覚めたの?

 さっきの話を、どれだけ聞いていたの?

 工藤みやびは口を開こうとしたが、喉が乾いて声が出なかった。

 何度も命を狙われてきたため、工藤家は彼女の身を守るために厳重な警戒を敷いていた。

 そのせいで、自由に友人を作ることもできず、堀夏縁が唯一の友達だった。

 彼女は生まれつき病弱だったので、親友として、彼女の人生に後悔が残らないよう、すべての願いを叶えようと努力してきた。

 今…今、彼女は私を殺して、私の心臓を移植しようとしているの?

 堀夏縁は彼女のその様子を見て、目の中の恐怖が徐々に消え去り、

 蒼白い病的な顔に極めて冷たい笑みを浮かべ、鈴木香の手から注射器を奪った。

 「みやび、私たちは最高の親友だって言ったでしょう。私の願いは何でも叶えてくれるって。私は生きたいの、助けて、あなたの心臓を私にください」

 「夏縁……」鈴木香は娘の腕を引っ張り、諦めるよう説得しようとした。

 「ママ、もう引き返せないのよ」

 堀夏縁は鈴木香の言葉を遮り、薬物を工藤みやびの腕の動脈に注入した。「工藤司(くどう つかさ)が彼女が目覚めたことを知ったら、彼女の心臓を私に移植させてくれないわ」

 彼女が死んでこそ、私は生きられる。そうすれば工藤司と一緒になれる。

 工藤みやびは強い生存本能から、自分を救おうともがいた。

 しかし、二ヶ月間昏睡状態だった体は、抵抗することもできないほど衰弱していた。

 普段は風が吹けば倒れそうなほど弱々しかった堀夏縁の目に、凶暴な殺意が満ちているのを見ながら、注射器が彼女の腕の血管に刺し込まれ、薬物がゆっくりと注入されていくのを感じた。

 彼女の衰弱した体は、まぶたが重くなっていき、目を閉じる直前に病室のドアが開き、防護服を着た端正で優雅な男性が入ってくるのが薄れゆく意識の中で見えた。

 どこか懐かしい姿の男が入ってきた。

 工藤司!

 工藤司、助けて!

 工藤司が来たことを知り、工藤みやびの心に一筋の希望が灯った。必死に意識を保とうと努めた。

 彼女は聞こえた、工藤司が尋ねる声を。

 「彼女はどうだ、まだ目覚めないのか?」

 堀夏縁はベッドの横で泣きながら、彼女の手を握りしめた。

 「……まだ、ダメみたい。ママとお医者さんも相談してて……もう時間がないって」

 工藤司はベッドの横に長い間立っていたが、最後にこう言った。

 「手術の準備をしろ、摘出だ」

 一言で、工藤みやびの最後の生存への希望も消え去った。

 意識は次第に遠のき、ついには果てしない闇の中へと落ちていった……