第19章 この世の絶世の美女2

「パン」という音がして、藤崎千颯のスマホが床に落ちた。彼は話している人を見て、まるで幽霊でも見たかのように驚いた。

「荒、荒木雅？！」

荒木雅というあの目を刺すような妖怪が、どうしてこんなに美しく、こんなに可愛いはずがあるのか？！

工藤みやびが近づいて、彼のために落ちた携帯を拾って渡した。

「この前は急いでいたから、あなたがお父さんと呼ぶのを待てなかったわ。今日はちゃんと言ってくれるでしょ？」

藤崎千颯は大げさに書斎を指さして、「兄が...兄が呼んでる...」

そう言うと、携帯を取り戻して書斎に飛び込んだ。

工藤みやびは振り返ってキッチンへ行き、自分が煮ていたお粥を確認した。先ほど藤崎雪哉は彼女を天水ヴィラから追い出した。

今、彼がここにも来たということは、ここにも住めなくなるということだろう。

藤崎千颯は書斎に飛び込むと、自分の重大な発見を驚きを隠せずに語り始めた。

「兄さん、気づいた？」

「あれは荒木雅だよ、あの前に僕たちの家で妖怪みたいな格好をして、毎日あなたに付きまとっていた荒木雅だよ。」

「素顔がこんなに美しいなんて、彼女は以前どうしてあんなに自分を傷つけていたんだろう？」

……

藤崎雪哉は彼のうるさい話に耐えられず、「薬は？」と尋ねた。

藤崎千颯は兄の考えが気になって仕方なく、お構いなしに質問を続けた。

「兄さん、自分が家から追い出した女の子がこんなに美しいって知って、少しも驚かない？少しも後悔してない？」

藤崎雪哉は表情を変えず冷静に問い返した。

「聞いているだろう、薬はどこだ？」

藤崎千颯は彼の口調がおかしいと感じ、すぐにお腹に溜まった言葉を飲み込み、キッチンで料理をしている工藤みやびを探しに行った。

「あの...ここに風邪薬か胃薬はある？お酒を飲んだ後でも影響のないやつ。兄が病気なんだ。」

「ないわ、期限切れで捨てたの。」工藤みやびは無関心に答えた。

藤崎千颯は頭をかきながら、「じゃあ、兄さんに水を持って行ってくれない？僕は薬を買いに行くから。」

そう言うと、彼女の返事を待たずに出て行った。

工藤みやびは書斎の方向をちらりと見て、不本意ながら冷蔵庫を開けて、ネギ、生姜、大根を取り出した。

ネギの白い部分、生姜のスライス、大根のスライスを鍋に入れて水を加えて沸かし、約20分ほど煮てから一杯をよそい、書斎の外まで持って行ってドアをノックした。

藤崎雪哉は目を閉じて椅子の背もたれに寄りかかっていたが、ノックの音を聞いた。

「入れ。」

工藤みやびは煮たお湯をテーブルに置いて、「これを飲めば、喉が少し楽になるわ。」

藤崎雪哉は声を聞いて目を開け、少女の澄んだ瞳を見て2秒ほど呆然とし、テーブルの上の湯気の立つスープを一瞥した。

「お粥を作ったから、食べたかったら出てきて。」工藤みやびは結局彼の場所に住んでいるのだからと、礼儀正しく一言添えた。

そして、自分は出て行って野菜の炒め物を二品作り、食事の準備を整えた。

ちょうど食事をテーブルに運んだとき、書斎のドアが開き、藤崎雪哉が出てきてダイニングテーブルに座った。

工藤みやび：「……」

彼女は本当に単なる社交辞令のつもりだった。彼が自分の作った食事を食べないと思っていたのに、本当に食べに来るなんて。

キッチンに戻って新しくお粥を一杯よそって藤崎雪哉に渡し、座ってから説明した。

「ここは学校に近いから、藤崎お婆さんが私を連れてきたの。私は...明日部屋を探しに行くわ。見つかったらすぐに引っ越すから。」

おそらくあの温かいスープを飲んで体の不快感が和らいだからか、藤崎雪哉の気分は少し良くなったようだった。

「私はあまりここに来ないから、君はそのまま住んでいていい。」

「ああ。」

二人は黙々と食事をし、あの晩のことについては互いに触れなかった。

藤崎雪哉はお粥を一杯食べ終わると、尋ねた。「君は何と交換して服部さんの絵を手に入れたんだ？」

以前、彼はいくつもの交換条件を提示したが、服部さんは手放そうとしなかった。最後に彼らに告げたのは、彼女が何かと交換したということだった。

「私の祖父が残した棋譜よ。服部さんは上巻を持っていて、ずっと下巻を探していたの。」工藤みやびは正直に答えた。

服部深遠は絵に執着していたが、それ以上に囲碁に執着していた。

「じゃあ、ケーキは？」

藤崎雪哉の深い黒い瞳が鋭くなった。あのケーキはウィルソン夫妻の反応が大きかった。

「ネットで調べたの。ウィルソン夫人があのケーキが好きだって書いてあったから、作って持って行っただけ。」

工藤みやびは頭を下げて茶碗のお粥をかき混ぜながら、その鋭い視線に頭皮がチクチクするのを感じた。

藤崎雪哉はうなずき、彼女の説明を信じたようだった。

「君はこれらのことをして、何が欲しいんだ？」