第56章 荒木雅はあなたを策略にかけている

アパート、地下駐車場。

藤崎千颯は、そのまま立ち去るべきか、それとも上がって様子を見るべきか、焦りながら考えていた。

そのとき、エレベーターホールの方向から藤崎雪哉が歩いてくるのが見えた。

ただし上着は着ておらず、ネクタイもなく、シャツの襟のボタンも数個外されていた。

普段の冷たく厳格なイメージとは一変し、全身から...欲求不満の色気が漂っていた。

藤崎雪哉は車に乗り込み、「天水ヴィラに戻る」と言った。

藤崎千颯は不思議そうに振り返って後部座席の人を見た。さっき入っていくときはきちんとした身なりだったのに。

今は服装が乱れて出てきたということは、何かあったに違いない。

でも本当に何かしたのなら、彼が下りてきたのはたった30分前だ。兄さんが...そんなに早いわけないだろう。

「発車しろ!」