第169章 兄貴が君を好きになった理由の秘密

安藤監督は工藤みやびを褒めた後、竹内薫乃に言った。

「さっきの状態はとても良かった。もう小林清風の雰囲気を掴んでいるね。」

「ありがとうございます、監督。」竹内薫乃は微笑みながら一礼したが、内心では思った。

さっきは、自分が状態を掴んだからこそ、荒木雅を演技に引き込めたのだろう。

そうでなければ、彼女のような人が...どうしてできるだろうか。

工藤みやびは演技を終えると、安藤監督の側に行き、小声で言った。

「安藤先生、もう女性相手に男性を演じさせないでください。本当に...恐ろしいです。」

安藤は笑いながら彼女の肩を叩いた。「大丈夫、もう終わったよ。休みに行きなさい。」

工藤みやびはメイクを落とし、石橋林人と助手の岡崎とともにホテルへ向かう車に乗った。

石橋林人は彼女に水を渡しながら笑って言った。「大変だったね。」

彼女に竹内薫乃相手にラブシーンを演じさせるなんて、彼女が気分悪くならないか心配だった。

工藤みやびは水を受け取って一口飲み、言った。

「石橋林人兄さん、もし...私と三の若様が普段から演技の練習をするとしたら、許してくれますよね。」

結局、主演の演技力が足りなければ、最終的に興行収入が悲惨なことになり、彼女の将来に影響するだろう。

石橋林人は昨夜の藤崎千明の助けを思い出し、不本意ながら頷いた。

「演技の練習だけだ。余計な接触はするな。」

彼は彼女が演技力の乏しい三の若様に指導して、男性主役の役をうまく演じさせたいのだと理解していた。

工藤みやびが手本を見せた後、藤崎千明は二回やり直し、ようやくそのシーンを通過した。

撮影を終えてホテルに戻ったときには、すでに深夜1時近くだった。

部屋に戻るとすぐに、藤崎雪哉からの長距離電話を受けた。

「雅はどこだ？」

「俺はお前の彼女の見張り役じゃないよ。自分で電話しろよ。」藤崎千明はベッドに倒れ込み、疲れ切った様子で言った。

何度もNGを出したせいで、今は犬のように疲れていた。

「彼女の電話が通じない。」藤崎雪哉は冷たく言った。

藤崎千明はそれを聞くと、飛び起きて、ずる賢く笑いながら言った。

「じゃあ、俺がお前の彼女を探してやるから、その5億くれよ。」

電話の向こうで、藤崎雪哉の声は冷たく硬かった。

「行かなくてもいい。だが、二度と帝都に戻ってくるな。」