昼間、彼らはそれぞれの場面を撮影し、午後には監督に呼ばれて昨日のシーンを撮り直すことになった。
スタッフがまだセットを準備している中、藤崎千明は辺りを見回し、彼女に近づいて小声で尋ねた。
「本当に撮るの?」
「今撮らないでどうするの?」工藤みやびは反問した。
朝、彼らがどれだけ説得しようとしても、安藤泰監督はキスシーンを撮影する考えを諦めなかった。
「撮ったら、来年の今日は私の命日になるよ」藤崎千明は哀れっぽく言った。
工藤みやびは額に手を当てて、「そこまでじゃないでしょ、一応実の兄弟なんだし」
「兄さんのことを全然わかってないね」藤崎千明はため息をついた。
家族の中で、彼と藤崎千颯は父親も、祖父も恐れていないが、この長兄だけは別だった。
「とにかく酔ったふりをしてそこに横になっていればいいだけ。私はカメラアングルで誤魔化すから、本当にキスしなくていいよ」