このシーン、うまく撮れれば、小倉穂は観客から愛され、同時に憎まれるキャラクターになる。
もし撮れなければ、小倉穂は視聴者から袋叩きにされる大悪役になってしまう。
このシーンの小倉穂は、彼女の真実と純粋な愛を完全に演じきり、観客の心をつかむのに十分だった。
そして、さっきの藤崎千明も演技が爆発していた。
あの酔った目で「小倉さん、君は本当に美しい」と言ったセリフは、まさに神がかっていた。
監督は二度見て、藤崎千明の肩を叩いた。
「実力で勝負できるのに、なぜ顔だけで生きようとするんだ」
藤崎千明は自分の髪型を整えながら、誇らしげに言った。
「顔で食べていけるのに、なぜわざわざ実力に頼るという苦労をしなければならないのか」
「……」工藤みやびは口角を引きつらせた。
監督の安藤泰は無言で彼に白い目を向け、工藤みやびに向き直ると一転して笑顔になった。
「雅、入学の報告があるんだろう?この二日間でお前のシーンを撮り終えて、早く帰れるようにしよう」
「ありがとう、安藤先生」工藤みやびは頭を下げて感謝した。
「僕もテーマソングの録音に戻らなきゃいけないから、先に撮り終えて帰りたいんだけど」藤崎千明は不満そうに言った。
どうせ彼がこの映画を引き受けたのは、兄の代わりに花の守り手になるためだった。
今や彼女が帰るなら、彼が残っても何もすることがない。
「お前にはまだ撮っていないシーンがたくさんあるのに、帰りたいだって?」監督の安藤泰は怒りの目で睨みつけた。
この若造も演技力がないわけではないが、ただイケメンの顔を武器に、演技を磨く努力を全くしていない。
二人は場所を移動して、もう一つのシーンを撮影してから、ようやく撮影を終えてホテルに戻った。
藤崎千明はホテルの食事に飽きていたので、撮影クルーの車を借りて、彼女を連れて外食に出かけた。
おそらく映画村には多くの有名人が出入りするため、ここの人々は外食する藤崎千明にまったく興味を示さなかった。
二人が料理を注文すると、藤崎千明はスマホを手に取り、実の兄に状況を報告した。
報告が終わると、にこにこしながら言った。
「私たちはこれだけの仲だから、言っておくべきことがあると思うんだ」
「何?」工藤みやびは水を一口飲みながら尋ねた。